14人が本棚に入れています
本棚に追加
「失礼します」
ミドリさんは礼儀正しく扉を開け、丁寧に一礼する。
そっと様子をうかがうと、中で保健の白鷺先生が「あら?」という顔をしていた。美人で人気の先生だけど、僕らと週一の面談をする時はいつも少し困った顔をする。
「星影さん。定例のカウンセリングは、明日の午後ではなくって?」
「ええ、きょうは別件ですの。実は片山センセの伝言で参りました」
片山は体育大卒業の肉体派体育教師、イケメンで有名だ。
「白鷺センセに緊急のお話があるそうです。体育備品室で十分後にお待ちしてます、誰にも見つからないように来てください、と」
ミドリさんが窓の外を「ずびしっ」と指さす。
グラウンドを対角線に横切り、学校プールのそのまた向こう。備品室というよりスポーツ用具の廃品の保管所で、壊れた陸上ハードルやら傷んだマットやらが積まれ、ふだんは生徒も近寄らないプレハブ小屋だ。
「まあ、いったい何の用件でしょう」
「さーあー? 急いでいるみたいでしたよ。『例の件』とかで」
いたずらっ子のようなミドリさんの言葉に、先生がおろおろし始めた。
「すぐに行かないと。でも今は生徒が中で寝ていて……」
「じゃあ、私が留守番をします。あ、私はいつもの頭痛でーす」
「そう……星影さん、薬は上の棚だから。ゆっくり休んでね」
「いってらっしゃーい。お気をつけてっ!」
ミドリさんは、ニコニコしながら手を振る。白鷺先生は鏡でちょっと顔と髪の毛を確かめた後、外を軽くうかがってから、小走りに廊下に出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!