6人が本棚に入れています
本棚に追加
あつい、あつい。
日給で十万円差し上げます!――そんなアルバイトがあったら、人はどうするだろうか。
おそらく、殆どの人は“怪しすぎる”と忌避するだろう。ヤバい薬の治験にされるか、マグロ漁船にでも乗せられるのではと思う人もいると思われる(マグロ漁船の方は完全に偏見が一人歩きした結果だろうが)。
残念ながら、本当に切羽詰まった人間は“ヤバい治験だろうがマグロ漁船だろうがなんでもいいから金をくれ”になっているものである。私もその一人だった。いかにも危ないアルバイトとわかっていながら応募した理由は唯一つ、本気でお金に困っていたかりである。
わかっている、私の場合は誰かのせいになどできない。いくら仕事でストレスがたまっていたからといって、パチンコに行くことを選んだのも、連日の打ちでとんでもない額をスッてしまったのも自己責任だ。――生活のためにしたはずの借金で、ちょっとだけ、のつもりで再度パチ屋に足を運んでしまったのも。
所謂、ギャンブル中毒というものなのだろう。ちゃんと治療せねばいけないのはわかっていた。しかし、親に迷惑をかけたくない気持ちはあるし、それ以上に借金までしてギャンブルにのめり込んでいることを知られたくない。やむにやまれず、この際AVでも売春でもいいからと高額な仕事を探し始めたところで――私がネットで見つけたのが、今回のアルバイトであったのである。
何でも、夏の夜にとある宿泊施設に、同じバイトのメンバーと一緒に泊まるだけ。それだけで十万円が貰えると言うのだ。
この十万円というのがなかなか絶妙だった。破格の給料だが、それでもまったく非現実的というほどのお金ではない。さすがの私も、もう一つゼロが多かったら詐欺だと思ったかもしれなかったから。
「皆さん、今回は応募して頂き、誠にありがとうございました!」
書類審査を経て、合格した私達がバスで運ばれたのは街から遠く離れた別荘地だった。ぽつん、と山の麓に建った白い家。どうやらそこが、今回の仕事場であるらしい。バスガイド兼、私達の雇先の社員であろう女性はにこやかに説明する。
最初のコメントを投稿しよう!