あつい、あつい。

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 ***  別荘の中に入り、そのキッチンの床板を外すと、そこから地下室へ続く梯が現れる。狭いはしごなので、大人一人ずつが上り下りするのが精々であるようだった。  今回選ばれたのは、男五人に私を入れた女五人。全員成人しているようだった。一番若いのは、さっきガイドに話しかけていた気弱そうな眼鏡の男性だろう。多分まだ二十そこそこといった年だ。こんなアルバイトに応募してくるのだから、彼も訳ありなのだろうが。 「それでは、一日過ぎたら迎えに来ます。この出入り口に鍵はかかってませんが、カメラはありますので……私達が迎えにくるまでに地下室から出てきてしまった人は失格になります。ご注意くださいね」  梯子を降りて廊下を抜けると、真っ白なテーブル、真っ白な椅子、真っ白な壁に覆われた地下のリビングだった。部屋の構造はシンプルである。円形のリビングがあり、その周辺に十二のドアがある。そのうち十個のドアはそれぞれの個室で、あとの二個は食料庫と書庫であるようだった。  ちなみに、廊下にはキッチンと風呂に通じるドアもある。トイレは各部屋に併設されているようだ。 「夏ですし、この地域は夜かなり熱帯夜となります。暑くて眠れないようでしたら、各部屋とリビングのエアコンをご利用下さい」 「は、はい」 「それでは一日、よろしくおねがいしますね」  彼女はにっこりと微笑んで、さっさと私達を置いて帰っていってしまった。周りに店も家もない辺境の土地、該当さえ疎らとなれば、仮に逃げたところで遭難するのがオチだろう。私達は半ば、陸の孤島に置き去りにされてしまったようなものだった。それがわかっていながら、お金のために参加することを選んだのは私ではあったが。 「おい、ここ時計がねーじゃんかよ」  筋骨隆々の男性が、イライラしながら足を踏み鳴らした。 「しかもあの女、明日の何時に迎えに来るとも言わなかったし。畜生め」 「それでも引き受けたのは私達じゃないですか」  イラつく男性に、痩せた三十くらいの歳の女性が言う。 「お金が欲しいならがんばりましょ。人と無理に関わる必要もないでしょ、個室もあるんだから」 「ケッ」  なんだか、既に不穏な気配がしている。私はすぐ隣に立っていた眼鏡の青年と顔を見合わせた。  時計がない。正確には明日の何時に迎えに来て貰えるかわからない。それが想像以上にストレスになるのだと、気がつくまでそう時間はかからなかった。  レトルトのお昼ごはんを部屋で食べてすぐのこと。リビングで、バタバタと走る音が聞こえたのである。 ――どうしたのかしら。
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