あつい、あつい。

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 私が部屋のドアを開けて見れば、リビングを走り抜けて、奥の廊下へと向かう女性の姿が。あの痩せた三十くらいの女性だった。よく見れば、シャツのボタンが弾け飛び、豊満な胸を包むブラジャーがちらちらと見えている。 「ど、どうしたの?」 「!」  その女性は人でも殺しそうな顔で振り返ったが、その先にいたのが同じ女性の私だと気づいたのだろう、少しだけ表情を緩めた。そして、怒りを滲ませた声で言う。 「あの、筋肉ダルマ男に気をつけてくださいね。あの人性欲の権化だから」 「え!?」 「女なら誰でもいいんだわ。むしろヤらせてくれるなら男でもいいのかも。いきなり襲われたんです、私。ほんと最悪。いくらお金のためでも、あんな人と一緒にあと何時間もいるなんて無理!リタイアさせてもらいます!!」  そう宣言すると、廊下の奥へと走っていってしまった。その先に地上へ繋がる梯があるからである。  私は呆気にとられてしまった。確かに、レイプされかけたのならそんな相手と過ごせないのはわかるが――ここは駅からバスで数時間かけて辿り着いた別荘である。周囲に他に人が住んでいる様子もなく、近くに店などもない。一体何処に逃げると言うのだろう。 「馬鹿ですねぇ、あの人」 「!」  私がぎょっとして振り向けば、別の女性がこちらを見てにやにやしていた。二十代後半くらいの、金髪に派手な化粧の、いかにもそちらのお仕事をしていますといった人物だ。 「一体何処に逃げるんだか。せっかくたくさんお金貰えるんだから、ちょっとカラダ差し出すくらい我慢すればいいのに。ねぇ?」 「……」  いや、その考えは流石にどうかと思うが。私は呆れてしまった。  そして、ここに来てようやく、自分が想像以上にまずい状況にいるのではないかということに気付き始めるのである。さっきの女性は逃げてしまったが、実際この地下室を出たところで迎えが来るまで私達に行けるところはない。そして、こんなヤバイバイトに応募してくるほどお金に困っている人達が、まともな人間の集まりとは思えない。何故そんな簡単なことも思い至らなかったのだろう。  崩壊は、あっさりと訪れる。どうやら最初に痩せた女性を襲った男性は、本当に性欲を持て余しているヤバイ人であったようだった。このあとすぐ、部屋にいたらドアをノックされて“この際おばさんでもいいからやらせろよ”と言われたのである。勿論断った。そして、なるべく部屋から出ないようにしようと心に誓ったのである。
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