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やがて完成した外壁は、星が散りばめるメルヘンな家となり、近所の視線を集めた。ゴキブリたちの下絵が殊のほか綺麗な仕上がりで、山上はそれに倣って塗っただけのものだったが、出来映えは想像をはるかに上回った。
ゴミ出しのついでに立ち止まって覗く、ご近所さん。家がそんなに気になるのか、山上に何か聞きたいのか、見てくれが綺麗になっただけで態度がコロッと変わる。
独り者と知ってのことだろうが、徒歩五分くらいのところに住む河津さんが、このところ晩飯の差し入れまで持ってくるようになった。人が作った煮物を食べることになろうとは、七十を過ぎて楽しみがまたひとつ増えたよう。
九月の虫が鳴き始める頃、ゴキブリたちは更に活発に動いていた。ジョーを始めとする軍団は、次なる場所へと引っ越しを始める。
「おっさん。世話になったな。おっさんちも、随分と棲みにくくなった」
「悪いな、せっかく仲良くなれたのによ」
「いいんだよ。おっさんの身の回りの世話をしてくれるオバハンがいるんだろ? 部屋がこれだけ綺麗になってくりゃわかるよ。有難い話じゃんか。……じゃあな、おっさん。元気でな」
「お前さんたちも」
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