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秋の夜長
庭の紅葉の葉の彩りが落ち着く頃、夜風が樹木を揺らし、赤い絨毯を敷きつめる。家の中では丸い卓袱台に湯呑みが二つ、並んでいた。
「秋の虫の音は……寂しげだな」
「そうですか? 私には鈴のような軽やかなメロディに聞こえますがねぇ」
「この部屋も、河津さんのおかげで綺麗になった」
「いらないものは捨てるのが一番ですよ」
「扇風機も時計も壊れたまんまだったしな」
「そうですか? 長いこと使ってないだけで、案外使えたりするもんですよ?」
「こうやって独り者同士、ゆっくり時を過ごすのもいいもんだ」
「私も、家に帰って誰と話すわけでもなし、たまにこうしてお茶するだけでとっても楽しいわ。山上さんがこんな温かな人とは思いませんでしたもの」
「全てはアレのおかげだ。もう会うこともないがな」
「誰なんです? その人は」
人、と言われて山上は思わず笑った。
ーーもしかして女性と勘違いしてるのだろうか。ヤキモチでも妬いてくれたなら嬉しいが。
ふと見上げると、時計の針が二十三時を指していた。
「こりゃいかん。もうこんな時間だ。送っていくとしよう」
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