愛は流れ星の向こう

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愛は流れ星の向こう

「お願い、ちょっとの間家に置いて!」 「……はあ。まあ、いいですけど」  私が頭を下げて頼み込むと、三十半ばくらいのその女性はあっけにとられたように頷いた。突然の訪問者。しかも夜。それも、現代日本に似つかわしくない、ばりばりの十二単のお姫様が突然ベランダから“ダイナミックお邪魔します”をかましても動じないあたり、この女性かなりの大物である。私は“マジでありがとう!”と言いながらお部屋に上がり込んだ、ベランダから。  私の名前は織姫。キラキラネームではない。マジでお空の彼方、天の川の畔で機織りをして生活している織姫である。一応、神様ってことにはなっている。実際は、常に防犯カメラで見張られながら“仕事サボったら許さねえぞゴラ”と上位神に圧力かけられまくっているただの社畜であったが。  今日は、七月六日。  私は空で七月七日を空で迎えたくなかったがために、地上に降りてきたわけだった。適当な防犯カメラをしれっとぶっ壊して地上に降りてきたわいいが、馴れない飛行船の操縦にミスって不時着。仕方なく、近くでそこそこ大きな家に住んでいる女性の家に強引にお邪魔することにしたわけである。  その女性のことは、仕事をサボりながら時々地上を望遠鏡で見ていたので知っていた。といっても、知っているのは顔と、小此木涼花(おこのぎすずか)という名前だけ。随分広い一軒家に、女一人で住んでいて、夜になるといつもぼんやり空を見上げているので目立っていたのだ。朝昼は仕事をしていて、疲れていないはずがないというのに。 ――まあ、私にはどうでもいいんだけど。  ご丁寧に、突然現れた私に突っ込むこともせず、お茶を出してくれる女性を見つつ思う。 ――大事なのは、いかにして明日の夜まで、神様とあの人に見つからないで逃げおおせるかってことなんだから。
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