愛は流れ星の向こう

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 そもそも、何で此の人は私のような胡散臭い人間を部屋に入れてくれたんだろう。いくら、光と共に庭に降ってきたから人外なのは明らかだとしても――十二単のいかにもな日本のお姫様である。やばいコスプレイヤーだと認識されてもおかしくないし、そうでなくても人を騙すような妖怪ではないかと疑われることは充分にあり得たはずなのに。 ――何か、事情があるのかしら。  ふと、私はさっきちらっと見たベランダの笹を思い出した。すぐ近所に竹林があるので、そこから枝を拝借したのか、あるいは誰からか貰ったのか。細い枝にはまだ、短冊がぶら下がっている様子はない。そこに彼女はどんな願いをかけるつもりだったのだろう。小さな子供でもいたら、今頃可愛い短冊がたくさんぶら下がっていたのかな――そんなことを考えて、はっとした。  この家に子供がいないのは明らかである。それでも彼女は、庭付きの一戸建てに一人で住んでいる。ローンも馬鹿にならないというのに此処に住むからには、何か理由があるはずだ。例えば、必要な施設がすぐ近くにあるから、だとか。 ――そういえば、ざっとしか見てないけどこの家の近くって。  駅から徒歩十分。  小学校は反対側に徒歩十五分。  駅前には、保育園もあったはず。――子供がいない女性が、高いお金を出してこんなところに家を買う、その理由は。 「織姫さん」  やがて。まるで私の心を読んだかのように、涼花が顔を上げた。 「私、貴女が本物の織姫でも、不審者でも、邪神でもなんでも良かったんです、実は。どうせ、毎年叶わないお願いをするだけの七夕なら、その夜の前に何もかもなくなってもいいかなって、そんな風に思ってたから。……わざわざ落ち込むためだけに有給取るなんて、馬鹿げてるのに」 「あ、あんた……」 「だから、貴女が望むなら明後日まで匿うのもいいかなって思ったんです。もし貴女が普通に楽しい人なら、淋しい七夕の夜もちょっとだけ賑やかになるし、落ち込まないで済むかもしれないし。……でも、お話を聞いて気が変わりました。貴方は帰るべきです……遅くとも、明日の夜までに」 「……っ」  彼女の顔は、真剣そのものだった。何故彼女がそこまで真摯に私にアドバイスをするかなどわかりきっている。彼女からすれば、私の悩みなんて取るに足らないものであるだろうし、存在そのものが忌々しいと思っても仕方ないことなのだから。  確かに、彼に会わせる顔がなくて逃げたのは事実だ。罰として七夕の夜にしか会えなくなったのも、七年前に大ゲンカしてそれきりになってしまったのも全部私が悪いというのも。でも。  だからって、よりにもよってこの家に逃げ込まなくても良かったはずなのに。私はなんて、残酷なことをしてしまったのだろう。 「ご、ごめんなさい……」  目の前に置かれた、揃いの青いマグカップ。
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