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「もしかして」
ハルねえは予想が有ったらしい。
「またハルくん私を姉だって紹介したの? ちゃんと赤の他人で恋人だって言えば良いじゃない」
そう、俺たちは単純に渡会と言う苗字が多い小さな地域に住んでるだけで親戚ですらない。
「そうは言うけど、なんかこそばゆくって。ハルねえは周りに教えてるの?」
反論するとハルねえも一度口をつぐんだ。
「友達に彼氏は居るとは伝えてる」
「俺のことを知ってるのはデカ女だけでしょ?」
申し訳なさそうなハルねえの目が俺のことを見ている。とっても恋しい。
「だって、付き合いが長すぎてなんとなく恋人ですって言うには照れるんだもん。それこそハルくんに告白されたのなんて小学校に入る前の事だよ」
「それは中学で証明したでしょ。俺はハルねえの事が好きで付き合いたいって。だから今は恋人になれてるんんじゃん」
告白をして付き合うようになったのはハルねえが六歳で俺が五歳の時。
「冗談でハルくんが中学入学したときに友達に彼氏って紹介したら、ハルくんが真剣だって答えるからでしょ。誤魔化すのが大変だったんだから」
その時は本当にハルねえの事が好きで他に彼氏ができたら困るって俺の焦りもあったから言えた。若かった。
「そこで誤魔化すのがおかしいんでしょ。しかも兄弟って言うからややこしくなってる」
「でも、ハルくんも兄弟ってのを利用してるでしょ」
「なんとなく恋人って痒くて」
二人とも半分怒りながらも笑っていた。
「結局俺たちってヘタレなんだよね」
「別に、良いよ。仲良し兄弟でも」
「でも、俺の彼女だから」
「うん。彼氏さん」
一応そこは共通認識がある。ちゃんと二人の間には愛があるんだ。
「いつかは、そうだね。そのうち近所や家族にも彼氏って紹介したいな」
俺たちの近所は本当に田舎でみんな知り合い。そうなると親戚一同に紹介するみたい。これほどプレッシャーの有ることはない。
それでも俺は悩んだ。電車が目的の駅に着いたのも忘れるくらいに。
「乗り過ごしちゃうよ。まだバスも有るのに」
道のりは長い。考える時間は有りすぎる。良くないのかもしれない。
「ハルねえは俺と付き合っていて、幸せ? 兄弟の方が楽かな?」
改札を通り田舎駅の人気がないバス停に向かうときに聞いた。
「それはね」
一言呟きながらハルねえは近づくとホッペにキスをした。
「とーっても、幸せだよ。ハルくんが好きだから」
周りに人の姿がないのを良いことにこんな時だけハルねえはハッキリと言う。俺の心は決まった。
「ずっと一緒に居たい」
バスが着いてわざと狭い座席に並んで座ると俺はハルねえに言う。
「少なくとも私の卒業するまでの二年間はこうして一緒に帰れるよ」
「違うよ」
「卒業しても別れる訳じゃないし」
エンジン音を響かせて若干古いバスが進む。
「未来の事だよ。これからの人生を一緒に居たいんだ」
この時はハルねえの事をまっすぐに見つめて語った。
そうすると大好きな瞳から涙が流れた。
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