18人が本棚に入れています
本棚に追加
「悪いんだけど苗なんて読むのかな?」
急に背後から話しかけられた。高校に入学してまだ授業も始まってないのにだ。
「わたりあい?」
「ワタライだよ。渡会晴斗」
「そっか。なるほど。まあ、よろしく」
彼は友人をこんなに簡単に作ってしまった。俺にはない芸当と言える。
「ワータライ! 彼女って要るのか?」
入学式が始まろうとしているのに、呑気にも話をしてきた。まあ恐ろしくフランクな奴だ。だが、悪くない。
「別に、そんなのは」
ちょっと答えに困りながら返事をしていた。けれど、彼はそんな事を気にもしていない。
「そっか! そうだよな。俺もいないんだけど。高校ではきっちり探そう! その為にリサーチだな」
彼はポジティブでもある見たいで、それからニコニコと入学式を謳歌していた。
謳歌すると言うのは可愛い女の子を探している様子。時折目当ての子を見つけては律儀に名札の名前をメモしている。
「生徒会からの挨拶になります」
式の方は順調に進んでいる。退屈するばかりかと思うとそうではなかった。
「副会長の渡会遥香です。皆さんよろしくお願いします」
生徒会長の挨拶の後に続いて紹介された人が自分のよく知っている人だったので俺は驚いていた。
「ワタライ? なあ、お前と一緒だし名前も似てるな。もしかして姉ちゃんとか?」
「まあ、そんなもんかな」
「そっか! そう言われてみれば顔も似てる気がする。きれいな人だ。副会長と言うことは二年生だな。チェックだな」
メモを取っている彼を横目に俺は気が動転しそうだった。
「残念だけど、彼氏居るからな」
「そっか、あんなにきれいだからな。うーん、別れたら教えてくれ。一目惚れした!」
どうやら諦めの悪い人間らしい。これは困った事だ。
「なあ、お姉さんはどんな人がタイプなんだ? 部活に所属してるのか? 年下はどう思う?」
「やたら質問ばっかりだな。それもハルねえの」
「ハルねえ。ってか。これだから兄弟は羨ましい。紹介してくれないか?」
「彼氏が居るんだって」
「別れないのか?」
「別れないだろうな」
「弟にはそんな風に見えるだけだろ」
入学式の日なんてそんなに長くないのにずっとこいつと話していただけの日の様な気がする。
「お前って悪い奴じゃないし、キライじゃないけど。無駄に明るいとか言われないか?」
「無駄に暗いよりはマシだろ。バラ色の高校生活を楽しまないと」
「一日目はお前と喋った記憶が残るよ」
ため息をつくしかない。けれど、そう言いながら校舎を出ようとすると「俺は中学の時の仲間とお祝いカラオケだから」と別に俺だけしか友達が居ないわけではないにみたい。
「愛しの彼女が居るー!」
最初のコメントを投稿しよう!