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「あなたは……」
ぼくはその場に座り込んで、空を見上げた。暗い、黒い空の上に、赤い月が浮かんでいる。首を振ると、うなだれてしまった。
「あなたは、わたしよりも大人」
「今さら気づいたのかよ、デクノボウ。だからお前はデクノボウなんだよ。背丈しかお前にはないんだな。やっぱ一回死んで人生やり直してこいよ」
鼻を鳴らしながら、三号がぼくを見下している。
見下されて当然だ。
彩子を思う。いつも幸福そうに笑っている姿を。生き急ぐように、今だけにいる彩子は、いつも儚く綺麗だった。キラキラと光る水辺のように輝いて、ただ、いつもそこにいてくれた。
本当は、ぼくたちと違うことに苦しみながらも、それを見せまいと。
ぼくは、なんという思い違いをしていたのだろうか。
三号は立ち上がると、ぼくの背中を思い切り叩いて去っていく。ぼくはその三号の姿を見送っていた。別れを知っていて、感傷に浸れる、そしてぼくが気づかなかった彩子の悲しみを知っている少年を。その背中が小さくなっていくと、電車が通りすぎ、次に視界が開けた時には見えなくなっていた。
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