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「はい、じゃあぼくでいいですかね」  そう言って、ヒツジコが手をあげる。彩子は「じゃあ、ヒツジコからでどうぞ」と、手を差し伸べた。 「時が止まればいいなって考えたことはあるかって話なんですけど。ええと、電気消しましょうか。雰囲気出るように」  そう言ってヒツジコは立ち上がった。彩子はじっとヒツジコが何を話すのかワクワクと待っている。そんな彩子にユキノジョウは布団をかけてあげていた。  ぼくはまた自分の手のひらを見た。じんじんとした彩子の体温。どこかに行き場のない思いを抱えて、少しだけその姿を話してくれた。高熱でもここに来られずにはいられなかった彩子を思う。  電気が消されても、動物のように彩子の瞳は光っているような気がする。その中で、ヒツジコの話が心地よい子守唄のような口調で響いていく。  時がとまればいいのに、と、ぼくは願う。このまま四人がそばにいるまま、凍りつくように時間がとまってしまえばいい。そうすれば、幸せなままの彩子が残る。ぼくが残る。ユキノジョウが残る。ヒツジコが残る。  本当にいつか離れてしまうのか、ずっとそばにいるのかはわからないけれども。  ぼくはやはり時がとまればいいと、そればかり願っていた。  なんでだろうかはわからない。外に降る雨に少しセンチメンタルな気分にさせられて、詩的にでもなっていたのだろうか。彩子が終わりの兆しをはっきりと口にしたからだろうか。  ぼくは彩子を見つめていた。寝っ転がり、興味深そうにヒツジコの昔話を聞く彩子の頬が赤く染まっている。ただ、彩子はヒツジコを見つめていた。ふと目蓋を伏せると、ほっと息を吐く。ぼくは彩子を見つめていた。じっと彩子を見つめていた。
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