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この街の港湾施設で、季節外れの、一風変わった花火をするためにやってきたのだ。
カメラが激しくフラッシュを繰り返し、空中に投げられる。パシャパシャとした光は断続的に続き、海中へ落ちていった。それでもまだ光の瞬きを起こし、暗い、ただ真っ黒の海にぼんやりとした光が広がり、幻想的に溶けていく。彩子は「たーまやー」と言いながら、またフラッシュの点滅するカメラを投げた。じっと見つめていると、コマ送りのように、一瞬一瞬残像を残しながら、カメラは落ちていく。海中に落ちるとふんわりと煌めきを起こしながら、波が白く色づき糸を引くように光を放つ。夢のようなという表現はこんな時に使うんだろうなと思いながら、ぼくはそれを眺めていた。美しい光のイリュージョンに、他にここに遊びに来ていたものたちもほうっとため息をこぼす。
「キレイですね。カメラ、改造してあるんですか?」
またカメラを投げようとした彩子に、ヒツジコが聞いた。投げるのをやめて、彩子は自慢げにカメラを振ってみせる。
「そうさ、フラッシュの光を強くして、一回のシャッターボタンで何度も光るようにしてある。カメラの改造は得意なんだ。ナツキさんにくっついて、教えてもらったからね。カメラのフラッシュ改造」
「ナツキも、こうやって花火を作っていたの?」
なかなかに子供っぽい人だなと思いながら、ぼくはカメラを突く。彩子は首を振って、それからぎょっとすることを言った。
「違うよ、閃光弾を作っていたのさ」
「閃光弾?」
明らかな武器にぼくは声をあげてしまった。彩子はなんでそんなに驚くんだろうなというように、カメラのシャッターを押した。カメラが激しく点滅しだす。ヒツジコとユキノジョウが目を覆った。彩子は笑いながら、それを海に投げ込む。
「そう。それの応用でこうして花火になるなって、今日のために作った」
ヒツジコはまだ眩しいのか目を揉み込んでいた。ユキノジョウが少し心配そうに、彩子のカメラを一つ手に取る。
「ねえ、まさか、作るの依頼されていたりしないよね」
「してるよ。それがどうしたの?」
「ねえ、他の爆弾とか、作ったりしていないだろうね?」
「さて、それはどうだろう?」
くすくすと彩子は笑って首を傾げてみせる。それに、ヒツジコは目から手を離すと、どこか怒ったような顔をした。そのヒツジコを見て、彩子はイタズラっぽく顔を覗きこんだ。瞳はカメラみたいにキラキラとしていて、眩しいくらいの金色をしている。
「なんだい、言いたいことがあるなら言ってごらんよ。ヒツジコ?」
ヒツジコは彩子を見て、キッパリという。
「やめてくださいよ」
珍しい、ヒツジコの否定文句だった。これにはぼくもユキノジョウも目を丸くしてしまった。ヒツジコは他人の生活についてそう何かをいうことはない。責任が持てないのと、それぞれの人生と生活があることを知ってるからだ。彩子も真っ向からとめられると思わなかったのか、キョトンとしている。
「危ない、じゃないですか」
短く言葉を切って、ヒツジコは海を見つめた。彩子は数秒とまっていたが、ぷっと吹きだすと、カメラのシャターを押して、わざとヒツジコの目元に向けてみせる。「眩しいじゃないですか」とヒツジコが顔を隠しながら、光から逃げだした。彩子はカメラを海に投げると、たまらないといったように俯いてしまう。肩が揺れていた。そうして小さな笑いを漏らすと、どんどんその声は大きくなっていく。「危ない、危ない、危ない」と何かツボに入ったのか繰り返していた。
「危険運転に巻き込んどいていう台詞?」
「それとこれとは関係ないですよ。やめてくださいよ、そんなことするの」
「そもそも危なくないことが、この街にあるのかい?」
そう言って、彩子はヒツジコを指さして爆笑しだした。涙までこぼしている。何がそんなに面白かったのか。ヒツジコは手をかざしてフラッシュの光を警戒しながら、彩子が笑っている様子を見ている。まだ怒っているようだった。
そんな二人のやりとりになんか置き去りにされているような感覚を持っていると、同じことを考えていたのか、ユキノジョウが首を傾げてぼくを見上げていた。
「フーマと関わるの、やめません?」
「ヒツジコ、もしかしてジェイさんのことまだ怒っているの?」
ヒツジコは困ったような、まだ怒っているような不思議な顔つきのまま唇を突き出した。彩子はフラッシュをたくとカメラを投げる。キラキラとした光を見つめたまま、彩子は「そんなことより、花火を見ようよ」と笑う。
「彩子はジェイに謝られたのですか?」
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