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「いいや」 「じゃあ、まだ怒ってます。人形じゃあるまい。自分の不機嫌次第で殺そうとするなんてね。捨ててもいいって思われたんですよ」 「…………」  彩子は何も答えない。笑った顔のままカメラを投げている。 「ランドマークに来ません? 三号でも連れて、ぼくの家にでもいたらいいじゃないですか。さすがに狭いですけど」  ぼくとユキノジョウは顔を見つめ合わせたり、二人の様子を見たりしながら話を聞いていた。唐突に真面目になったヒツジコに戸惑っていたのだ。ヒツジコに合わせるべきか、そんなことより花火を見ようよと言えばいいのかわからなかった。 「手先が器用なら、こっちに働き手がありますよ」  そう言ってヒツジコはようやくカメラに手を伸ばした。二個ほど持ってシャッターを押すと「たーまやー」と海に投げつける。 「面白い提案だね。毎日騒がしそうだ、賑やかだろうな」 「でしょう?」 「……考えとくよ」  彩子はキラキラした瞳を伏せると、うんっと頷いた。そうやってから、ヒツジコの肩に肩をぶつけてみせる。「痛い」とヒツジコはいうとやり返しとばかりに彩子の肩に肩をぶつけた。ぼくはなんだかおかしな気持ちになりながら、二人を見ていた。  なんだか納得いかないものを感じながら、ぼうっとすることしかできない。ただ見ているぼくの服をユキノジョウが引っ張った。少し離れた段差まで連れられて、そこに座る。なんだかユキノジョウは遠慮してるみたいだ。でもぼくは、なんかしっくりこなかった。どうしてこんな気持ちになるんだろうな、と、少し自分が不思議だった。  煙草のキスづけをきゃっきゃっとやりあってる二人なんか見ているのに。 「ねえ、おれらが働いてる間、二人ともあんな感じなのかね」  そう言ってユキノジョウは煙草に火をつける。声にはなんだか楽しげな響きがあった。ユキノジョウは何が楽しいのだろう。 「わたしは、花火が見たかった」  ぼくがそういうと、ユキノジョウは「じゃあ、二人の間に突撃してくれば?」とにやにやした顔を見せつけてくる。あげく、ふうっと煙草の煙を吐きかけられた。ぼくは人間じゃないので煙たいとかはわからないが、煙草特有の臭いが強まるのはわかった。顔をしかめてもいいよと言われてる気がしたので、そうした。 「ユキノジョウはなんで離れたの?」 「いや、二人モードに入ってるなら、そうした方がいいかなって」 「二人モードとは何。みんなといるからみんなであろう」 「だからそう思ったら、あそこに入ってくれば? ねえ?」  ぼくはぷいっと顔をそむけた。どうせ戻ったって、ぼうっとしたまま二人を見てるしかできないだろう。ユキノジョウはくすくす笑っている。 「ヒーちゃん、気にしてたんだね、彩子とフーマのこと」 「彩子は別に気にしてないから放っておけばいい」 「ハイドはそうなんだ?」 「ユキノジョウはどうなの?」 「まあ、そこそこには気にしてたかな。しっかし、ジェイはなんであんなことしてきたんだろう。彩子、あんだけナツキに懐いてるんだから、殺したら険悪にはなるんじゃないのかな。ってか、見た感じ伝えてないみたいだけど、やったこと伝えたら、ナツキも怒るんじゃないのかなぁ」  彩子とフーマのことを二人はそれなりに心配していたようだ。そういえば、彩子がジェイのことを謝ったのはぼくにだけだ。二人からしたら、特にジェイが何故そうしたのか伝えられていないのだから、気にするのかもしれない。  そんなことを考えていたから、ぼくはユキノジョウの話の半分を聞いていなかった。  彩子とヒツジコは顔を寄せて忍び笑ったり、何かを言ったのか小突きあったりしている。ぼくの知らない二人がいる。  彩子はそういえば、ヒツジコの使ったハーモニカを気にせず口付けていたなと思い出す。ぼくたちの間では普通の意識することでもないと思ってた。でも今は気になってしまう。二人は、なかなかぼくたちが離れたことに気づかない。  じっと見つめること、いくらたったのだろう。やっと彩子がふんわりと振り向いた。 「なんで離れてるんだい。こっちおいでよ、花火終わっちゃうよ」  首を傾げながら、ぼくたちを呼んでくる。ヒツジコも大きく手を振っていた。 「行こう」 「うーん、そうだねぇ」  ぼくたちは立ち上がり、二人のもとへ向かっていく。その時、不思議な幻視が起きた。彩子もヒツジコも、とても遠いところにいる。向かっているのに、何故か距離は縮まらない。そんなものだ。  はっとした時、ぼくは二人の前に立っていた。彩子がシャターを押してカメラを投げる。キレイな軌跡を描きながら、フラッシュがたかれていく。水に落ちると光は滲んだ。中心に強い光を点滅させながら、ほんのりと周囲に光が拡散していく。それがだんだんと遠くなっていき、光は見えなくなる。
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