6人が本棚に入れています
本棚に追加
最後はみんなで持てるだけ持って、いっしょにシャッターを押した。海に投げると、大きな光の点滅になる。僕らは笑ってみていた。彩子が手を上げたので、ぼくはそれにハイタッチで返す。そうやってみんなで手を叩きあった。
ぼくたちはいつも、こうやって笑いあってた。「何か楽しいことはないのかな」が昔のぼくたちの口癖だった。でも、四人組の中にはそこに探していた何かがあった。この感じは条件が全部揃っていないと、あっという間になくなってしまうものだ。夏の夜の祭りの空気を思い出すのに似ているかもしれない。暗い海の向こうには、黒い街があった。空には星も何もなくて、赤い月がぽっかりと浮かんでいた。
でもぼくたちには彩子がいた。金色の瞳を太陽みたいに輝かせて、そこにある幸せを伝えてくるものが。ぼくたちは、彩子の光に照らされていた。
「じゃあ、次はダンスバトルだ。ランドマークがセブンに勝てるかな?」
彩子が走りだして、段差の上まで登り切ると、ダンスを踊りだす。ヒツジコがそれに混じっていく。ぼくは彩子の動きを真似てみせる。ユキノジョウはヒツジコに飛びついて、それから背中を台にポンっと飛んでみせた。なんでもない、なんでもないぼくらの一ページがここにあった。確かにあったのだ。
ある昔の小説で、こんな一節を読んだことがある。「わたしはこの十二歳のときの仲間達のような友人は、その後ひとりももてなかった。世間の人はどうなのだろう?」と。表紙には『スタンド・バイ・ミー』と書いてあっただろうか。
ぼくも、ぼくらのような関係を、ぼくたち以外に築くことはなかった。そういう関係を、持っている人は世界に何人いるのだろう? ぼくはそんな人たちに聞きたい。
今も欠けずに、そばにいますか? と。
この頃のように。
彩子の代わりのように、ヒツジコが顔を出さない日があったのは、花火をしてから一週間後だった。彩子が首を捻りながらオアシスに一人でやってきて「ヒツジコはどうしてる?」と聞いてきたのだ。
「電話しても繋がらない。ここにいるかと思ったんだけどね」
「ヒーちゃん、彩子のところにいるわけじゃないんだ」
今日、ヒツジコが顔を出さななかった。てっきりそのまま彩子のところに遊びに行ってるのかと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。彩子は「ヒツジコの家ってどこだっけ」とカウンターに座る。彩子は頬杖をつきながら「オススメで頼むよ。まだ何も食べていなくてね」と言った。どうやらここで待つつもりのようだ。ユキノジョウが張り切って、何か栄養になりそうなものを探す。
「ヒツジコの家に行くのではないの?」
「そう思ったけど、行き違いもあるかもしれない。ここで待つのが一番わかりやすい。それでも来なかったら行ってみるよ」
「珍しい、ヒツジコが顔を出さないのは」
そう言いながらぼくは彩子のために温かいお茶を出した。何も食べていないのならば、アルコールという気分ではないだろう。礼を言い受け取ると、彩子はふーふーと息を吹きかける。
「ここの前は賑やかだな、いつも思っていたけど。ランドマークは管理人がよっぽどうまくやっているのだろうね」
彩子はちらりとランドマークに視線を移すと、一口お茶を飲んだ。管理人というのはランドマークを仕切るボスの通称だ。
「こいぬ組もよくやってるからねえ。結構平和にやらせてもらってるよ」
「こいぬ組? なんだい、そのとんちんかんな名前」
「おれの店を守ってるところ。こいぬ組にみかじめ料を払ってるんだ。まあ、間抜けた名前だけど、この街の花火を取り仕切っていてね。ランドマークじゃ上位にあたるチームかな。逆らうやつなんかいない。若いけどなかなかやる集団だよ。だから現金で支払いしてるのに、おれは襲われないってわけ」
「ふうん。花火を取り仕切ってるのは、こいぬ組だったのか」
目をくりくりさせて彩子が興味をしめしてきた。ユキノジョウは「はい」と皿を彩子の前にだす。パチンと割り箸を割ると、彩子は律儀に両手を合わせて「いただきます」と言った。今日ははんぺんの他にも巾着餅やじゃがいもなんかも入っている。
「こいぬ組に興味があるならヒーちゃんに話すといいよ。おれよりもっと強い繋がりがあるから、紹介してもらえるよ」
「それは楽しそうだ。ヒツジコは顔が広いね」
彩子は相変わらずちびちびとものを食べている。会話をして、ぼくたちを見たり、ランドマークを見たりと視線は忙しく動いている。どうやらヒツジコを探しているようだった。ぼくは「もし来なかったり、家に行っても見つからなかったら、管理人にわたしが聞いてみる。わたしたちの家の周辺を知らないが、街に出ているのはわかるから」と言った。彩子はそれに目を細めて、胡散臭そうな顔をする。
最初のコメントを投稿しよう!