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「ランドマークの管理人は千里眼を持っている、だっけ。本当なのかい、その噂は」
そう、ぼくたちの住む街の子供達のボスにはそんな噂があった。正確には動物型のロボットを街に放ちそれを見て情報を得ている。この答えを知っているのは、ぼくたちとこいぬ組のボスくらいだろう。
ちなみに、ぼくたちの家の周辺を知らないのは、監視されているようで嫌な気分になるので、管理人に頼んでロボットを放っていないだけだ。それで困ることもままあるが、毎日見られるより精神的にはいい。
「ねえ、そんなの信じられないよね。でも本当だよ。ランドマークのことならほとんど知ってる。千里眼の持ち主だよ」
「きみたちが言うなら本当なんだね。ふふ、今までランドマークは平和なものだと笑っていたよ。千里眼やら、伝説を簡単に信じると」
彩子はそう言って笑いながらも、簡単に信じてくれた。三号なんかに言ったら「本当、頭が平和だな。信じるかよ。だいたいそこらにツテの多い情報屋かなんかだろ」と一笑にふして終わりそうだ。彩子はぼくたちの話ならなんでも信じてくれる。ぼくがもし正体を明かしたらどうなるんだろうな、さすがにこれは信じないだろうなと思いながら、彩子の食べる様子を眺めていた。
ちまちま、ちまちまゆっくりと食べていたが、彩子は全部食べきった。ユキノジョウにお金を払いながら、くるりと背を向けてカウンターに背を預ける。
「来る様子はないな。ここいらで公衆電話は?」
ユキノジョウが説明すると、彩子はやれやれと言ったように歩きだす。
それからお客さんが数名やってきた。ぼくたちがそれに対応しだすと、どんどんとお客さんが入ってくる。新しいテーブルや椅子を出して座らせて、メニューを取ったりした。カウンターのお客さんも、テーブル席がいいと言うので、新しいのを出す。そうしていたものだから、ユキノジョウもぼくも、ヒツジコがカウンターに座るまで、やってきたことに気づかなかった。
「おしぼり、頼めますか、まず。ティッシュもあるなら、それも」
「ヒーちゃん?」
ユキノジョウがすっとんきょうな声をあげる。ぼくもヒツジコの姿を見てびっくりした。
口から血を流しながら、頬を腫らしてヒツジコが座っていたのだ。明らかに喧嘩後と見てもよかった。
「ヒツジコ!」
後ろから彩子が安心したようにやってくる。「電話も繋がらないし、いったい」と言いかけて、ヒツジコの様子に驚いたようだった。
「彩子、ちょうどよかった。プレゼントです」
と言って、ヒツジコは何やら白いものを彩子に向かって投げる。彩子は空中でキャッチして、空へ掲げた。眉を寄せて、不審そうに何かを角度を変えたりして見ている。
「なんだい、これは」
「歯ですよ。戦利品」
「きみ……なかなかロマンチックな贈り物じゃないか」
本気なのか、嫌味なのかそう言って、彩子は歯を両手に包んでみせる。ユキノジョウがおしぼりを差し出しながら「そんなことより、何してたんだよ」と心配そうに声をかけていた。
「リーゼントのやつらですよ。喧嘩売ってきたんで、ちょっと勝ってきました」
「ねえ、ちょっと勝ってきたって、何人いたの?」
ヒツジコは薄いながらも、目元にも痣があった。ぼくは簡易冷蔵庫から冷たいおしぼりを出すと、冷やすように伝える。お客さんの何人かヒツジコに注目していた。ヒツジコの喧嘩だ。あと二時間もすればリーゼントの情けない話が広まることになる。
「マジウケましたよ、最後の台詞。覚えていやがれ、次こそはですって」
「きみ、勝てたのはいいけど、他に怪我はないかい?」
「腕がちょっと痛いですね。腹をかばったんで。まあ、大丈夫です」
彩子が興味津々と言ったように、ヒツジコの袖をまくっている。おしぼりを頼まれたので、ぼくは冷えたやつを彩子に渡した。彩子はヒツジコの腕を冷やしながら鼻歌を歌っている。勝ったとはいえ、怪我をしていると言うのに、まったくお気楽だとぼくは呆れた。
「で、驚いたんですけど」と言ってヒツジコは彩子を見た。「ジェイにとめられたんですよ。その喧嘩。それまでにしないかって」
「ジェイが?」
ぼくが聞くとヒツジコは頬を冷やしながら頷いた。どこか傷んだのか、眉を寄せる。
「ジェイ、ぼくに用があったわけじゃなくて、あいつらに用があったみたいでしたけど……彩子、フーマはやつらとの関わりあるんですか?」
「いや? ナツキさんは相手にしてないけど……ジェイさんも今まで関わったなんて話は聞いてないけどな」
彩子はヒツジコの腕を持ちながら、視線を遠くに置く。何かを考えているようだ。
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