4/8
前へ
/59ページ
次へ
 どっとした声が上がる。リーゼントたちは爆笑していた。本当にギャグでも聞いたみたいに、どこか場違いじみた笑いだ。ぼくはどうして、こいぬ組と対立したというのに、そんなゆとりを持っていられるのかわからない。 「うるさい! こいぬ組なんていらない。今、思い知らせてやる!」  負けじと彩子が叫んだ。ぼくがとめようとした腕を振り払って、リーゼントたちに駆け寄ろうとする。その時の動きはコマ送りのように見えた。リーゼントが胸から銃を取り出し、彩子の足を狙おうとする。ぼくは振り払われた手をもう一度伸ばし、彩子を抱え上げた。  ドン! という銃声が響く。彩子を抱き上げたぼくの足元に、銃弾は命中した。彩子もぼくも目を見開いていたと思う。銃なんて武器をリーゼントが持っているなんて。  ピューイとリーゼントは口笛を吹いた。肘掛けにしていたカバンを開いくと、楽しげに中身をぼくたちに見せつける。 「オアシスのマジシャンのハイドは、銃も避けられるって噂があったな。本当だとは思わなかったよ。だけどこいつはどうかな」  そこには小銃があったのだ。リーゼントが構える前にぼくは彩子を抱えながら、後ろに飛んだ。だけど、すぐ足元を狙われる。ガガガと銃弾が足元を駆け抜けていく。 「shall we dance?」  そうリーゼントは遊ぶようにぼくの足を狙って小銃を撃ち出した。ぼくはその言葉のまんま踊るように、足を走らせていく。足元には火花が飛び散り、コンクリートの破片がカンっと飛び散った。頭を伏せた瞬間、またガガガと音は響き、積み重なった車に穴を開けていく。 「彩子、しっかり掴まって!」  どうしてリーゼントが小銃などを持っているのだろう。今までは持っていなかったはずだ。どうして……などと考える暇がなかった。足元に火花が上がり、ぼくは飛びながらなんとか攻撃を避けていく。 「どうしてって面をしてるな」  弾切れを狙ってみるが、リーゼントの仲間が次を待つように、同じく小銃を手にしている。このまま逃げ切らなくてはならない。彩子を助けるために。  だが、次の言葉で一度ぼくは足をとめようとしてしまった。 「ジェイだよ。リザといっしょにナツキを裏切った。笑えるよな。おれらに武器を流して、体よく使って、街の勢力図をひっくり返そうとしてる。ナツキは甘いからな」 「嘘だ!」  間髪入れずに彩子が叫んだ。その頬をピッと銃弾が通り抜けていく。ぼくは思い直して、車の後ろへ滑り込んだ。ガガガとドアに穴を開ける音が聞こえる。彩子は泣いていた。ぼくにしがみつき、頬の傷も気にせず涙を流す。 「嘘じゃない。本当さ。お前の大好きな大好きなフーマは内部分裂してる。まあ、どうでもいい。おれは、おれでジェイを利用させていただく」 「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 全部嘘だ!」  トントンと靴を鳴らす音が聞こえる。何人かがこちらやってくる。積み上げられた車に囲まれながら、ぼくはそれを聞いていた。彩子はひっくひっくと喉を鳴らすと、小さく声を吐き出して、ぼくの耳元で囁いた。 「彩子が、伏せてって言ったら伏せて」 「え?」  両手で涙を拭きながら、彩子は鼻をすすりながらも静かに呼吸をする。瞳は鋭く半分隠れていた。 「ダンスフロアはそこか。もっと踊ってくれよな。ジェイのこと話したんだ。死ぬ前に楽しませてくれよ」  車の陰からリーゼントたちが顔を覗かせる。ヒャハハと下品に笑うと、逃げ場を塞ぐように横にずらりと並んだ。  ぼくは彩子を抱え直して、リーゼントを睨みつける。翻弄してやつらバラバラになったところで、誰かを倒して道を切り開く……のが、本来のやり方だろうが、彩子には考えがあるようだ。 「まあ、いつもコケにしてくれたんだ。お姫さまは犯して犯して犯して殺すけどな。王子さま、観客にしてやるよ」  ぼくは彩子を信頼した。ここを、二人で、切り抜ける。  リーゼントが小銃を抱え直すと、また火花がぼくの足元に飛び散る。 「第二ラウンド。今度は数人だ」  言い切るや否や、複数方面から銃弾が飛び交ってくる。上下左右もない。ぼくは高く飛び上がると、背後の車を蹴って同じ位置につく。髪の毛数本がちぎれ飛んだ。きっと蜘蛛の巣のようになっったフロントガラスが、衝撃で破片を散らしていく。風が吹いて粉々になったガラスが舞い上がった。でもぼくは一人一人の方角を確認して、冷静に避けることに専念する。  頭を下げ、横に飛び、落ちないように彩子を抱え直す。  やつらは苛立っているようだった。撃ち抜けないぼくに、静かな彩子に。  作戦を練ろうとしたのか、やつらが固まる。その時だった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加