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 彩子がいなくなって一週間後、セブンにリザとジェイの死体が吊るされた。  これがナツキのナツキなりのケジメの付け方だったのだろう。同情よりも、まずほっとした。ぼくたちの言葉が信じられ、ナツキは行動に移したのだから。信用されなかったらランドマークや彩子、ぼくたちがフーマの敵になる。  彩子は戻ってこなかった。街を巻き込んだ事件だから、事後処理が大変なのだろうとぼくたちは呑気にしていた。  どうせ彩子はぼくらの元へ帰ってくる。その時は、労るより思いっきり遊ぼうなんて話し合いながら。  しかし彩子は違った。  シークレット・ガーデンに春が訪れる頃、彩子はぼくたちの前に姿を現した。その日は何もすることもなく、ランドマーク前でだらだらと、とりとめのないことを話していた。そんな時だった。 「久しぶりだね。みんな」  そう声をかけられ、振り向くと彩子と三号がいた。みんな言葉を失っていた。彩子は真っ黒なドレスにショールをかけていたのだから。 「通りかかったら見えたものでね。みんな元気そうでよかった」  しっかりと化粧をして、髪の毛を整えた彩子は、もちろんいつもの彩子ではなかった。ヒツジコが目を丸くしている。ユキノジョウはぽかんと口を開いていた。 「どうした、似合うかい。彩子もなかなかのものだろう。ナツキさんが買ってくれてね」  ゆっくりと一回転する彩子に、三号が呼びかける。 「彩子、一言二言話すだけって言ったろ。もう戻らなくちゃ」 「わかったよ。それじゃみんな、顔を見れて、よかった。彩子はセブンに戻らなくちゃ。じゃあ」  彩子は慌ただしく、三号に連れられて、乗ってきたのだろう車へと戻っていく。車の中にはナツキがいた。 「彩子」  早々とナツキの元へ帰ろうとする、その背中をヒツジコが呼び止めた。ゆっくりと振り返り、困ったように眉を寄せる彩子がいる。 「彩子……帰るんですか?」 「うん……」  困った顔はじわじわと泣きだしそうに歪む。しかし、首を勢いよく振ると彩子は笑った。首を傾げて、ゆっくりと言う。 「十二時の鐘は鳴らないよ。もう、十二時過ぎてるじゃないか。セブンに帰らなくちゃ。それに、ナツキさんがいる。心配だから。一人になって、心配だから」  三号が「彩子」とショールを引っ張って呼びかける。彩子は振り向かず車に駆けていく。シンデレラのような綺麗に着飾ったドレスが夢のように揺れていた。ピンヒールのパンプスはガラスに似て煌めいたが、脱げることはなかった。  ドアが開くとまっすぐナツキに抱きついていた。ナツキは彩子を撫でている。三号が助手席に座ると、ナツキと彩子の唇が近づいていく。  そこで車は走り去った。ぼくはぼーっとその車を見ていた。考えが追いつかなかったのだ。彩子は、ナツキの元へ行ってしまった。  するとヒツジコが「あーっ」と叫んで、そのまま地面に倒れ込んだ。ちっと舌打ちをして、額に手を当てる。 「寝取られましたね」  ユキノジョウも深いため息をつく。 「ねえ、寝取られたね」  はあとヒツジコもため息をつくと、両手を広げて空を見つめた。悔しそうな、何か納得できないような、変な顔をしている。 「おれ、彩子好きだったなぁ」 「えっ」  思わず声が出た。ぼくは驚きを隠せずヒツジコを見た。ユキノジョウが呆れ顔でぼくの肩を叩く。 「ねえ、気づいてなかったの?」 「そのような雰囲気に見えなかった」 「ねえ、男が女に頻繁に花送るかな?」  ぼくはしばらく考えて、ヒツジコと同じように倒れ込んだ。肩をぶつけあっていた二人や煙草のキス付けをしていた二人が過ぎっていく。それもこれも、ただの遊びではなかったのだ。  もう彩子のいない道を見つめる。ぼくらは四人組だった。  でももうそれは過去の話になってしまったのだ。多分、もう会うことはないだろう。ぼくらは固くて、脆い。関係とはそんなものと割り切れず、一人、一瞬にして大人になって消えた彩子をぼくはいつまでもいつまでも見つめていた。
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