4 Fin

4/4
前へ
/86ページ
次へ
助手席のドアを開け、平野が遠ざかる。 名残惜しく感じる。 またそのうち、すぐに会えるはずなのに。 あの時逃げなければ。 その後、逃げ続けたりしなければ、もしかしてもっとはやく付き合えてたりしたんじゃないかと、今更、後悔を感じたりもするけれど。 でももういいか もう一度、やり直すことができるなら バタンとドアが閉まり、一歩下がって、車内を覗き込むようにして彼女が手を振ってくれる。 助手席の窓を下げ、シートベルトをはずして左に身を乗り出す。 「じゃあな、またな。また連絡するから」 「うん、待ってる」 「お前も………俺も待ってるから、連絡して」 平野がまた、どこか痛々しく微笑する。俺は振り切るように窓ガラスを上げて、小さく手を振ってから前を向く。 泣くなよな 俺は少しも、お前を泣かせたくなんかないんだ シートベルトを締め直し、エンジンをかける。 左手でサイドギアを動かして、ゆっくりアクセルを踏み込む。 まだ好きかどうか分からないなんて、昨日は思ってたはずなのに、ほんとかよ。 そう、必死で思い込んできただけなんじゃないのか? バックミラーの中には、軽く首を傾げている平野が、小さく写っている。 小さなトランクを引きずって、妙に所在なさげで、今すぐ引き返して、何かから守ってやりたくなる。 今日は言えない、今日はまだ。 だけど。 俺はあっさりと陥落して、近いうちに彼女に言うのだろう。 平野のことが好きだと。 いま、またちゃんと好きだと。 きっと何度も。 甘く甘く。 もう一度、そしてこれから Fin
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加