121人が本棚に入れています
本棚に追加
「ホテルって、ラブホでいいのか?もう少しまともなとこ?っていっても、ろくなのないけどな」
「ラブホでいい」
「どうせ今夜は混んでるだろうから、ちょっと離れるぞ」
「うん」
田舎の道に、車を走らせる。
まだ8時過ぎだと言うのに、東京に比べてずっと暗かった。
途中またコンビニに寄って、飲み物やら酒やらスナック菓子を調達した。ゴムも一応買った。嗜みってやつだ。
それでもまだ、このまま、言われるがまま、ラブホに連れ込んで本当にいいのか、正直まだ迷っていた。
ほんとになに考えてんだか
よく分からないよな
平野は無言で、窓の外を見ている。あんなことを提案しておきながら、あれからずっとまともに喋らない。
俺はどうしたらいいんだ。
もちろん、ヤろうと思えば、ヤれるけど。
今も平野が好きなのか、よく分からないのに。
じわじわと、苛立ってくる。
ふざけんな。
ようやく遠くなりかけていたのに。
忘れたわけではない。忘れたわけではなくても、さまざまな日常が折り重なって、ようやく見えなくなってきていたのに。
今日、平野に触ってしまったら、抱いてしまったら、もう、絶対に忘れられない。
平野のことをもう好きじゃなくても、二度と消えることはないだろう。
一生残る記憶になる。
その予感だけが、ひしひしと迫る。
それでいいのか?
そうしたいのか?
自分でもまだよく分からないのに。
「俺がもしサイコパスでも、車で連れ込まれたらもう、走って逃げらんねーよ?」
最後の分岐点を用意したのに、平野は抑揚のない声で、いいよ、と小さく、でもはっきりと言った。
最初のコメントを投稿しよう!