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平野のことを今も好きなのかどうか、俺には全然分からないよ。
でももう、今日の記憶が上書きされて、平野は一生、記憶から消えることはないだろう。
ずるいよお前……ほんとずるい
どうしたらいいのか、どうするのが正解なのか、分からないまま。
でも、抗えなくて。
抗えるわけがない。今ならきっと、もっと上手なキスができる。
お前のこと、好きだったよ
分かっていた。
触れたらもう、止まれない。それだけは分かっていたんだ。警鐘も鳴っていた。ダメだと、良くないと、分かっていたけど。
俺、平野のことが好きだったよ
その思いが鮮烈すぎて、結局俺は屈したんだ。
丁寧に口付けた平野の唇は柔らかく、少し乾いていて、次の瞬間にはもう、没頭していた。
耳から頬、首筋に左手を這わせる。暑かったせいか肌はしっとりと濡れている。
「や、あの、シャワーとか」
「あとでな」
「浴衣、暑いから汗がすごくて……」
「同じだよ、どうせ俺も汗だくだ」
「でも……」
なお何か言おうとする平野の口をもう一度塞いだ。
無理だ、待てない。
なぜかは、説明できないけれど。
俺はいまだに平野が好きなのかどうか、全然分からないのに。
気が急いて、一刻もはやく、帯で締められた浴衣を開いてしまいたかった。
それは単純に、性欲に負けたからなのか、目の前にいるのが平野だからなのかもよく分からないまま、帯に手をかける。
解き方がよく分からなくて、多少強引に引っ張ってしまった。
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