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「私は、笹原と、もう一度ちゃんと会いたくて」
「分かったよ、分かったけど、だったらなんで、ホテルに行こうなんて言ったんだ。逆らえねえよ、俺には、無理だったよ。気付いたらもう、お前のことここまで裸にしちゃったし」
ここまできて、怖気付いてるとか思われるのかな。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
ただ、俺は俺で、あの記憶は、あの無様な記憶は、みっともないけど綺麗な想い出で。
「もうちょっと、やりようがあるじゃん、連絡先交換してとか、何度か会ってとか、そう言う普通のさ」
平野がキッと、きつい目を向けてくる。
「そんなゆっくりしてたら、笹原はまた逃げるじゃん!」
被せるように言う。今日一番、強く大きな声で。
「前だって、笹原逃げたじゃん!あのあと何度も、話しかけようとしたのに」
そうだったっけ……?
平野は、俺に話しかけようとしてくれてたのかな。
だってもう俺は、無理やりキスなんてした罪悪感と気まずさで目も上げられなくて、だから、平野が視界に入らないように入らないように、とにかく避けてしまったから。
「普通に連絡取ったって、笹原は絶対逃げる」
平野はキツく睨んでくる。
その視線をちゃんと受け止めたいのに、彼女が裸だから、今更ながらどうにも目のやり場に困ってしまう。
まあでも図星だな……
俺はたぶん、逃げるな……
「なんだ……お前の今日の目的、俺の捕獲だったの」
ぼんやりと呟く。力が抜けた腕がだらりと垂れ下がる。
平野がどこか、眩しそうな目をして、むにむにと口を動かしてから、ひとつ大きく、息をついた。
「そうかも。だから望み通りに、捕まってくれる?」
平野の手が真っ直ぐに伸ばされて、腕を掴まれた。
「笹原を捕まえるためなら、私、そういうことをしたい」
強く腕を引かれて、俺はあっさり陥落した。
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