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6
とっくに夢中になっていた。
かき集めたはずの理性など実はほとんどなくて、平野に腕を引かれただけでもう弾けて消えた。
優しくしようとか、丁寧に触ろうとか、頭のどこかに引っかかってはいたもののとても衝動を抑えられなくて、強く押さえつけてしまった。
「あ、待って、ねぇ」
「ごめん」
ごめん、と口先で謝りながら止められなくて、首筋に顔を埋めて胸に手を伸ばす。
だめだ、こんなんじゃ。もっと、ゆっくり、と思っているのに。
平野の腕が首にからみ、強く抱きつかれる。
「待って……!」
喘ぐような必死の声にようやく、少しだけ我に帰り、呆然と彼女を見下ろしてしまった。
「ごめん」
「大丈夫、だけど、もう少し、ゆっくり」
「うん」
平野は少し笑って、俺の両頬に手を置いて引き寄せて、柔らかにキスをくれた。
「ごめん、なんか、ちょっと暴走した」
「うん、大丈夫。ちょっと、嬉しかったし」
「なんだそれ」
「望まれるって、嬉しいよ」
「……あー、あんまそういうこと、言うな」
俺が平野を、望んでなかったときなんてあるのだろうか。
俺は、ずっと、ずっと平野が好きで。
一言も話せなくなってからも、忘れたことなんかなくて。
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