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「な、もっかいしよ」
何も言わないまま、でも、妙に驚いた様子の平野を見やる。
「あのな、ホテルに誘ったのは、そっちだからな」
そう言い訳しながら、彼女の身体を柔らかく倒す。
巻いていたタオルの境目が胸に食い込んでいるのをそっとなぞってみる。
「いい?」
平野は今、なにを考えているんだろ。
これが、一夜限りでいいなどと、もう俺には思えない。
結局のところ、今日は最初から最後まで平野の計画した通りで、まんまと罠に嵌った気がするのが面白くはないけれど、真冬のモコモコした私服も見たいなと思ってしまったからたぶん俺には、勝ち目がない。
「次はもっと、ゆっくりちゃんと味わうわ」
「わ、なにそれ、変態っぽい」
「その可能性を考えてなかったお前が悪い」
「えー」
「俺は、相手がとろっとろに溶けてくれるような甘ったるいセックスが好きなんだよ」
「そんなの……」
「あるよ、教えてやる」
ずるずると後退して、胸の下あたりを点々と唇でなぞりながら言うと、平野が少し震えた。
「期待しとけ。足腰立たなくなって、走って逃げられないように、してやる」
忘れられないって、好きとは違うのかな。
でもどちらにしてももう、俺も逃げられないから。
平野の喉から漏れだす、短く高い声を目を閉じて聞く。
もっと、もっと、乱れればいい。
手探りで、平野の両手を探す。
指を絡める。とにかく今、離れないように。
明日のことは知らない。
それ以上先のことも。
だけどとにかく今、捕まえていたい。
これが好きだという感情だといいなと、ふと思った。
平野も、同じように思ってくれるだろうか。
明日、目が覚めて、ふたりでそう確かめられたなら本当にいい、と、平野の肌をたどりながら、考えていた。
夜が灼きつく(side笹原) Fin
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