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その夜、笹原は結局、私をニ度抱いた。 別に、ニ度なんてさして多くもないしそのくらい慣れているはずなのに、かつてないほど丁寧に丁寧にされたので、終えた時にはびっくりするほど時間が経っていたし、ぐったり疲れてもう動きたくなかった。 それなのに、お互いほとんど話さないまま、ほとんどなんの情報交換もしないままだった。かろうじて知ったのは、笹原が今横浜にいることだけ。 どんな仕事をしているのかとか、互いに今、恋人がいるのかどうかさえ、何も知らないまま。 たぶん……笹原にはいないんだろうけど 笹原の手はずっととても優しかったし、時折、苛立ちが混ざる目も、やはり根本的には真っ直ぐで、大切な恋人を裏切ってまでこんな馬鹿げた夜を過ごすタイプには思えなかった。 初めのうち、あきらかに乗り気でなかった笹原が、途中から俄然、熱を帯びてくれた理由はいまいち掴み取れなかった。 笹原に会いたかったからと言っても、信じているのかいないのか、探るような目を崩さず、それならもっとやりようがあっただろうと正論をぶつけられてカッとなる。 だって笹原は逃げるじゃん、とむきになって言い返したら、途端に気が抜けたような掴みどころない目で見返してきた。 「……お前の今日の目的、俺の捕獲だったの」 「そうかも。だから望み通りに、捕まってくれる?笹原を捕まえるためなら、私、そういうことをしたい」 笹原の腕をぐっと引いた。今度こそ、温度を持った重みが、私の身体の上に落ちてきた。
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