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嘘じゃない。いつだって、セックスは相手のためにするもので、私の気持ちよさとかは遠くにあって、手に入らないものなのに。 なんで今日は……笹原があんな風にあちこちぺたぺたと撫で回すから。 可愛がられている、というのに気付いてしまって、いつも耐えているばかりのはずの身体が喜んで反応しようとしているのが分かる。それが逆に怖かった。 だって、そんな風にしてくれる人なんて、ほとんどいないって知ってるから。 「ほんと、大丈夫、笹原が気持ち良くなってくれれば、それで充分」 伏し目がちに、何やら思案顔の笹原が、少し首を傾げながら見下ろしてくる。 左手は笹原の右手の指と絡まされてベッドへ、笹原の左の人差し指の背が、ゆっくりと目尻から顎へと伝っていく。 「それ違うって。そんなの、まともなセックスじゃねーよ」 「でも」 「でもじゃねーよ、教えてやるよ。俺も別に、そんなにうまいわけでもないけど」 笹原の目が細くなり、でもそのまぶたの間から、優しげで切なげな光が隙をついて振ってくる。 「あるんだよ、ちゃんと、満たされるようなやつが。セックスはさー、たぶん、お前が思ってるより、捨てたもんじゃないし、簡単に諦めるようなもんでもないんだよ」 ああ、笹原はそういうのを、知っているのだろうか。 そんなまともな関係を、築いたことがあるのだろうか。 きっとあるのだろう。 だって笹原はまともで、とても優しいから。
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