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待ち合わせ場所にふらりと現れた俺を見つけると、7年ぶりの平野は唇を引き結んで目を細めた。
笑ったんだか、泣きそうなのか、分かりにくい表情。
でも全体的には、あんま、変わってないかな。
予想の通り彼女は浴衣で、手には小ぶりのトランクを引きずっていた。
浴衣はやはり紺地に花の模様、でもあの夜よりも落ち着いた色柄で。
軽く茶色い髪をクルクルとまとめ上げて綺麗な飾りで留めていた。
そのうなじにすっかり大人の女の色気みたいのが滲んでいて、なぜか目を背けたくなった。
始まるから、行こう、と言ったのは平野だった。
トランクを引きずりながら、下駄の足でコトコトと歩いていくのを、数歩下がってついていく。
平野がずっと前を歩いているから、後ろ姿がよく見えた。
えんじ色の帯が、なにやら複雑な形で結んであった。
平野は黙々と歩いていく。
目指しているのは、7年前に行ったのと同じ土手だろう。
平野はあの夜をまるでなぞるように、同じ時間に同じ道を行く。
いったい、なぜ。
そしてなぜ俺は、唐突に呼び出されてこんなことに付き合っているのか、謎で。だけど帰るとも言えなくて。
平野は振り返らないし。
土手について、平野がトランクをあける。用意のいいことにレジャーシートを持ってきたらしく、草むらに広げてその上に座る。
左半分をあけて見上げてくるので、またひとつ、ため息をついて隣に座った。なにを話したらいいのか分からなくて、ふたりとも不自然なほど無言だった。途中でおもむろに、平野がペットボトルのミネラルウォータをくれた。
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