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「もうすぐかな」 「そうだな」 腕時計を確認する。花火が始まるのは午後7時。 夕方の気配が消えて、夜がはじまる中で、デジャヴのように、隣で平野が膝を抱えている。 あの日、花火が始まる頃、ようやく暗くなったのをいいことに、平野の横顔ばかり見ていた。 平野に誘われたことが嬉しくて、でも本当に誘われていたのは俺じゃなくて恩田だと知って絶望して、でも恩田には彼女がいるから、平野の誘いには乗らないことは分かっていた。 恩田はいい奴だから、絶対に誘いには乗らない。そう分かっていたから俺はちゃんと、恩田に声をかけて予定通りの回答に満足して、で、それを平野に伝えなかっただけだ。 それはそこまで重い罪だったのだろうかと今なら思うけど、平野に言われた、ひどくない?の一言でぱちんと何かが弾けてしまった。 全く、繊細すぎていやになる。 あんなことさえしなければ、友達のまま、卒業できたのに。 いま自分がどう言う立場で、ここにいるのか分からなかった。 友達?元クラスメート? どういうつもりで、平野は俺に連絡を取ったのか。 いまさら。 もう相当な、いまさらに。 ドン、ドン、と腹に響く音がして、空に華やかな花が咲く。 俺たちの地元の、自慢の花火。 チラチラと照らされる平野の頬を見ていた。 綺麗になった、と思った。 あの頃だって、じゅうぶん可愛かったけど。 綺麗になったな。 そう思ってしまうだけで、妙に胸が苦しくなる。
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