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夜空を彩る光がどんどん派手になり、そろそろ今年の花火も終わる。 花火が終わったら、どうするんだろう。このあと、平野はどうするつもりなのか。 「お前、こっちいつ帰ってきたの」 「さっき」 「いつまでいんの」 「決めてない、花火大会に、来ただけだから」 「わざわざ?どこから?」 「東京」 あー、平野はいま、東京なんだ。 「……俺に、会いに来たの?」 「そう」 どう言う気まぐれだよ、それ。 本当に、平野の考えていることが分からない。 「あのさぁ、知らないうちに俺がサイコパスとかになってたら、どうするつもりだったんだよ?危ねぇだろ」 「そのときは、そうだなぁ、走って逃げる」 「まだ走れんの?」 「どうだろう?」 高校時代の平野は陸上部で、放課後はいつも走っていた。 俺は、平野の綺麗に伸びた脚を、いつも見ていた。 「そもそも、あのメールってまともに会う気ないだろ……普通、当日のあの時間に、捕まらないぞ」 「うん、だよね」   だよね、じゃねぇよ 「お前、俺のこと馬鹿にしてる?」 「してない」 「俺が今でもお前のことが好きだとか、自惚れてんの?」 「違う………ただ、毎年思い出すから、花火を見ると」 平野が、首を傾げるようにこちらを向く。 背後に広がる花火が明るくて、少し、逆光気味に影が落ちる。それでも、彼女の顔はよく見えた。 ひどく静かな表情だった。 「夏が来ると、地元に帰ると、この場所にくると。笹原のことばかり思い出すから」 それは思いがけない言葉で、少し、呆然とする。 「恩田じゃねーの」 「違う、笹原。笹原のことばかり、いつも思い出す」 そう言ってほんのり目を細めた平野は、なんだか困ったような顔をしていて、目が離せない。
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