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4 Fin
「俺は、お前とちゃんとした関係を作りたい。だから、平野も、自分の希望を言わないとダメだ」
不安なのか、まだ疑っているのか、彼女は言葉もないまま瞬きを繰り返す。
彼女の言葉を待ちたいと思いながらも、誘惑に駆られて、つい、右手を伸ばす。指先が彼女の髪に届く。彼女はくっと、肩を揺らした。
そのままゆるゆると頭を撫でる。昨日は結い上げていた髪は、緩く波打ちながら肩に流れている。
「なぁ、平野はどうしたい?どういう自分が好き?教えてくれないと、俺には分かんないよ。なんせ、まともに話したの、7年ぶりだからな」
「私は……」
言い淀む彼女の言葉を、頬に当てた手で促す。
「なんでもいいから、まあ、言ってみ?無理なら無理って、俺も遠慮なく言うしな」
茶化すように、ちょっと軽い雰囲気を作ってやる。
それでもしばらく黙っていた彼女の目に、また不意に涙が浮かんだ。
「私は……ほんとは」
「ん?」
束の間、言葉を探すように開いた口が閉じてまた開いて、視線が揺れる。
そして。
「……優しく、されたい」
絞り出すように震える声。まぶたの淵に留まっていた涙が、瞬きを機に、堰を切って流れ落ちる。
ああ、なんでまた、泣いて……
俺は平野を、泣かせたくなんかないのに。
ただ、優しくされたいと、そればかりの希望を口に出しただけなのに。
誰だよ、っとに
お前のこと、ここまで追い詰めたヤツ
ふざけんじゃねーよ、なにしてくれてんだよ
涙は、滴る前に親指で拭ってしまう。
濡れた頬が、乾いて痛むことなどないように。
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