4 Fin

1/4
前へ
/86ページ
次へ

4 Fin

「俺は、お前とちゃんとした関係を作りたい。だから、平野も、自分の希望を言わないとダメだ」 不安なのか、まだ疑っているのか、彼女は言葉もないまま瞬きを繰り返す。 彼女の言葉を待ちたいと思いながらも、誘惑に駆られて、つい、右手を伸ばす。指先が彼女の髪に届く。彼女はくっと、肩を揺らした。 そのままゆるゆると頭を撫でる。昨日は結い上げていた髪は、緩く波打ちながら肩に流れている。 「なぁ、平野はどうしたい?どういう自分が好き?教えてくれないと、俺には分かんないよ。なんせ、まともに話したの、7年ぶりだからな」 「私は……」 言い淀む彼女の言葉を、頬に当てた手で促す。 「なんでもいいから、まあ、言ってみ?無理なら無理って、俺も遠慮なく言うしな」 茶化すように、ちょっと軽い雰囲気を作ってやる。 それでもしばらく黙っていた彼女の目に、また不意に涙が浮かんだ。 「私は……ほんとは」 「ん?」 束の間、言葉を探すように開いた口が閉じてまた開いて、視線が揺れる。 そして。 「……優しく、されたい」 絞り出すように震える声。まぶたの淵に留まっていた涙が、瞬きを機に、堰を切って流れ落ちる。 ああ、なんでまた、泣いて…… 俺は平野を、泣かせたくなんかないのに。 ただ、優しくされたいと、そればかりの希望を口に出しただけなのに。 誰だよ、っとに お前のこと、ここまで追い詰めたヤツ ふざけんじゃねーよ、なにしてくれてんだよ 涙は、滴る前に親指で拭ってしまう。 濡れた頬が、乾いて痛むことなどないように。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加