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そうこうしている間にちかちゃんが来た。ちかちゃんは、この辺で一番制服が可愛い、と言われている高校に行っている。チェックのスカートにチェックのリボン。リボンは何パターンかあるんだと嬉しそうに話してくれた。
「これね、昨日ちかが作ったの!」
そう言ってちかちゃんは可愛らしいピンク色の箱を出した。
中にはぎっしりとクッキー。
「わぁ、すごいね、美味しそう」
僕がそう言うと、ちかちゃんはえへへと笑った。
リビングのローテーブルの真ん中にクッキーの箱を置いて、みんなで「美味しいね」と言いながら摘んで、ちかちゃんは嬉しそうにそれを見ている。
ちかちゃんは「可愛い」に命をかけてる。
今だってもう夕方なのに髪はキレイにカールしてるし、メイクもばっちりだ。小中学の頃の遅刻の理由はたいてい「前髪がキレイにできなくて」だった。
「あれ?そう言えばちかちゃん、学校のカバンじゃないね」
床に置いてあるカバンはピンク。さすがにピンクのカバンは通学には使えないと思う。
「うん。1回帰ったの、クッキー取りに」
さっきのメッセージで耀くんがいるって分かったからだろうな。
いなかったら手ぶらだったのか、それとも来なかったのか。
まあ、僕はどっちでもいいけど。
宿題が終わったら、後はもう各々が好きなことをしてる。
部活に打ち込んでる人たちからしたら、もったいない時間なのかもしれない。
でも僕は、朝も放課後も休みの日も全てを捧げるほどのモノに出会っていないのだ。
どうすれば出会えるのか教えてほしい。
そんなことを考えながら、学校で借りてきた本を読んでいると、敬也が僕の左側から寄ってきた。
「なあ碧、あれどうにかして」
僕の耳元で、敬也がボソッと言う。
「どうにかって、どうしてほしいの」
僕もそれに小声で応える。
敬也の視線の先、僕の右隣に座っている耀くんと、その正面に座っているちかちゃん、そして耀くんの隣には姉が座っていて3人で何か喋ってる。
「水瀬先輩と、もちょっと話したいんだよー」
敬也は姉を、水瀬先輩、と呼ぶ。耀くんのことも谷崎先輩だし、依くんや、えりちゃんの事もセンパイ呼びだ。
僕は「先輩」という響きが嫌いだ。
「あーもー、仕方ないなあ」
僕は立ち上がって冷蔵庫のチェックに行った。
お茶のペットボトルと牛乳が減ってきてる。これでいこう。
そう思って、買い出し用の財布とエコバッグを2つ引き出しから出して、耀くんのそばに行った。
「ねえ耀くん。買い物、付き合ってほしいんだけど」
あ、お姉ちゃん睨んできた。
「いいよ。重いもの買うの?」
耀くんはそう言ってすぐ立ち上がった。
「うん。お茶と牛乳」
「なによ碧、それぐらい1人で行ってきなさいよ」
と、お姉ちゃんは不満げに言ったけれど、
「陽菜は弟にキビしいなぁ」
そう言いながら耀くんが笑いかけると口をつぐんだ。
僕ができるのはここまでだぞ、敬也。後は自分でどうにかしろよ。
耀くんと2人で家を出ながらそう思った。
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