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お互いに4冊の本を選んで貸出手続きを済ませて図書館を出た。
「あっついねー」
「まあ昼前だしな。どっか行く?それとももう、うちに来る?」
耀くんがミネラルウォーターを飲みながら訊いた。そして「いる?」と訊くので、うん、と頷いて少しもらった。そんなやり取りが気恥ずかしくて嬉しい。
そう思いながら、どうしようと考える。
耀くんの家には、今日はお母さんがいる。
でも耀くんの部屋に入っちゃえば…。
少し手を伸ばして、耀くんのシャツの裾を引っ張った。
「…耀くん家、行く」
「分かった。じゃ、行こっか」
戻りの電車は空いていて、2人で並んで座った。
一駅なんてほんの数分と思ったけど、座るとほっとした。
ほっとして、そしてやっと、結構長い時間を図書館で過ごしたことに気付いた。
「図書館、ああやって本選ぶの楽しいね。効率悪いけど」
「そうだな。碧の興味の方向性が分かって面白い」
なんかそれは恥ずかしい。
耀くんをちらっと見ると、切長の瞳が僕を見つめていた。
それだけで、ちりちりと肌が焦げるような気がした。
駅に着くと耀くんはお母さんに「コンビニ寄れるけど、何かある?」と連絡していた。放任だけど仲は悪くない。
「なんかマスカットのスイーツが今日から出てるはずだから見てきてだってさ」
「あ、それCMで見たよ」
「ふーん?」
今朝耀くんが飛び出すように出てきたコンビニに2人で入った。
耀くんは新発売のスイーツを3つ買っていた。「これは母に頼まれてるから、お金はいらないからね」と先に言われた。
家の最寄駅の近くは、誰かに会うんじゃないかと思ってちょっとドキドキする。
「少し急ごうか、碧。クリーム溶けそうだし」
耀くんがちょっと早足になる。僕は小走りでついて行く。
急いでるのはクリームのためだけなのかな。それとも耀くんも誰かに会ってしまわないように早く帰りたいのかな。
マンションのエントランスまで来ると、耀くんが歩調を緩めた。僕はすっかり息が上がっている。耀くんが済まなそうな顔で僕を見た。
「急がせてごめんな、碧。もしかして誰かに会うんじゃないかと思うとつい…」
「あ、耀くんもそう思ったの?」
「碧も思ってた?」
「思ってた。お昼からうちに行くとか、ないことじゃないし」
エレベーターのドアが開いて乗り込んだ。さほど広くない箱の中に並んで立って、間の手をぎゅっと握られた。指と指を絡める恋人繋ぎ。
これから耀くんのお母さんに会うというのに頬に熱が集まってくる。
困ったな、と思っているのに、目的の階でエレベーターが止まった時手を離されて、思わずその大きな手を掴んだ。
耀くんは一瞬驚いたように目を見張り、そして微笑んで言った。
「俺は、このまま帰ってもいいよ?」
「!」
僕はまだ、そこまでの勇気はない。唇を噛んで耀くんを見上げ、そっと手を離した。耀くんは一つため息をついた。
部屋の前でドアを開ける前に「平気?」と訊かれた。正直なところ全然平気じゃない。
「し、心臓が口から出そう…っ」
「そんなに?」
そう言って笑った耀くんが、やけに綺麗だった。
「深呼吸してみな。大丈夫。取って食ったりしないから、うちの親」
僕が3回深呼吸をしたのを見た耀くんが「開けるよ」と鍵を出した。
僕はたぶん情けない顔で耀くんを見上げた。耀くんはそんな僕を見て、サラリと頭を撫でてくれた。
カチャカチャッと二つの鍵が開けられて、音もなくドアが開かれた。
奥の方で音がして、華奢なシルエットが現れる。
「耀、おかえりー。あ、碧くん。久しぶり、いらっしゃい」
光を振り撒くように華やかな耀くんのお母さん。
「お、おじゃまします…」
やっぱり緊張する。
「相変わらず可愛いわねー、碧くん。さ、上がって上がって。お昼はね、カルボナーラ作るからね」
耀くんのお母さんが、そうにこにこと僕に話しかけている間に、耀くんが僕の前にスリッパを並べてくれて、背中をぽんと押した。
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