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「片付けは俺がやっとくから母さんは支度しなよ。碧、ちょっと本でも読みながら待ってて」
耀くんが椅子から立ち上がりながらそう言った。
「あらそう?じゃ、お願い」
耀くんのお母さんは嬉しそうにしながらリビングを出て行った。
僕は言われた通り、図書館で借りてきた本を出してみるけれど、開いても全然読めない。
この後のことを、考えてしまう。
テーブルの上に本を開いて置いて、キッチンから聞こえてくる水音を聞くとはなしに聞いている。お皿のカチャカチャいう音。やがて水音が止まった。
キッチンから出てきた耀くんが、
「俺の部屋、エアコン入れてくる」
と言ってリビングから出て行った。その後、廊下でお母さんと話している声が聞こえた。
パタパタとスリッパの音がして、リビングのドアが開いて、耀くんのお母さんが「エコバッグ、エコバッグ」と言いながら入ってきた。
「じゃ、私出かけてくるから。ゆっくりして行ってね、碧くん」
「あ、は、はい」
にっこり笑いながら手を振って言われて、肩を窄めて頭を下げた。きちんと閉まらなかったリビングのドアの向こうから、耀くんが「忘れものない?」と訊いている声が聞こえる。「お財布と、スマホと、エコバッグと、日傘と、あ、タオル」というお母さんの声と、パタパタと歩くスリッパの音がする。
「じゃあ、お留守番お願いね。行って来まーす」
よく通る明るい声と、パタンとドアの閉まる音。
それからカチッカチッと鍵をかける音がした。
そして、リビングのドアが開いた。
耀くんが僕の方に歩いてくる。
「母は出かけたよ、碧」
そう言って、耀くんが椅子に座ったままの僕の方に屈んで、そっとキスをした。
何度か啄むように口付けて、唇を舐められてぞくぞくする。
僕は、初めて耀くんの首に腕を回して抱きついた。
耀くんは僕を掬い上げるように抱き上げて立たせると、深く唇を合わせた。
舌で歯列をなぞられて、開いた口の中を熱く舐め回されて息が上がる。
心臓はどくどくと忙しなく鳴って、身体の内側から熱が湧いてくるのを感じた。
耀くんの手が、僕の肩を、背中を撫でていく。
その手がぐいと腰を抱いた。
あ
思わず目を開けた。
唇を重ねたまま、耀くんと目が合った。
密着した互いの身体の変化が、分かってしまった。
「…俺の部屋、行く?」
掠れた声で囁くように言われた。ほんのり赤い目元。
その、濡れた瞳を見返して、こくりと頷いて応えた。
耀くんはもう一度僕をぎゅうと抱きしめて「じゃ、行こっか」と耳元で優しく言った。
「まだちゃんと冷えてないけど」
部屋のドアを開けて耀くんが言った。エアコンの稼働音が響いている。
肩を抱かれて中に入って、耀くんが後ろ手にドアを閉めた。
片手で僕を抱きしめた耀くんが長い指を僕の顎にかける。
「キスの続き、してもいい?」
僕を溶かしてしまう甘く低い声が、背骨にずんと響く。
「…うん…」
耀くんを見上げて、頷きながら応えた。
顎に触れていた手に上を向かされて、僕は目を開いたまま唇を開いた。
視線を合わせたまま唇を重ねて、でも僕は上顎を舐められて目を閉じた。
広い背中に手を回してしがみつくけれど、もう心臓は苦しいほどに高鳴っていて足元が覚束ない。
キスで生まれた熱が、どんどん下腹に溜まっていく。
…どうしよ…、キス、気持ちよすぎ…
やっと口付けながら呼吸が少しできるようになって、でもやっぱり酸素が足りなくて頭がくらくらする。
耀くんは一度唇を離すと、僕を軽々と抱き上げてベッドに下ろした。
そのまま押し倒されて覆い被さるようにキスをされる。
耀くんの身体の重さと熱を感じて、もうどうにかなりそうだ。
この前は、確かここまで
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