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耀くんのお母さんから「そろそろ帰りまーす」とメッセージがきて、僕も帰ることにした。
本当は全然帰りたくなんてなかった。
下るエレベーターの中で手を繋いで、降りる時に手を離した。
2人並んで、ゆっくりと僕の家まで歩いた。
玄関が見える所まで来た時、ドアがゆっくりと開くのが見えた。
「…お姉ちゃん…」
中から出てきた姉が、無表情に僕たち2人を見た。
「やっぱり一緒だったのね」
「…うん」
一歩一歩近付くにつれ、姉の表情が鮮明に見えるようになる。
不機嫌と不愉快感と腹立たしさを内包した、無表情。
「で、今日も送ってくれたのね、耀ちゃん」
「もちろん」
いつもと変わらない口調の耀くん。
ちらりと見上げると、表情も普段通りだった。
「碧はね、可愛くても男子なのよ、耀ちゃん」
「分かってるよ」
そう応えながら、耀くんは僕の方に視線を流した。
僕は耀くんの部屋での出来事を一瞬思い出してしまった。
「…ちょっと、暑いし中入って」
姉はそう言いながら玄関に入った。
僕と耀くんは顔を見合わせて、そして姉の後に続いた。
姉はリビングの真ん中に立って、僕たちに視線を向けた。
「…付き合ってんの?2人」
姉が眉間に皺を寄せて訊いた。
僕は耀くんを見上げ、耀くんは僕を見下ろす。
「もういい。分かったから」
姉は僕たちの様子を見て不機嫌そうに言った。
「…なんで?」
姉が搾り出すように呟いて、唇を噛む。
「なんで、女の子にめちゃくちゃモテるのに碧なの?耀ちゃん」
真っ赤に潤んだ目で耀くんを睨みながら姉が言う。
「なんでって言われても、好きだから、としか答えられない」
耀くんは困ったように笑っている。
「だって碧は男の子なのに…っ」
「そこはね、もう十分悩んだ末だから」
そう言った耀くんはもう笑っていなかった。
「小さい頃からずっと碧を見てて、ずっと可愛いと思ってて。弟がいたらこんな感じかと思ってたこともあったよ。でもあの花火大会の時に碧が連れてかれそうなの見て、ほんとに心臓が潰れそうになって。その後も碧が心配で心配で、できることなら片時もそばを離れたくないと思うようになって。これは違うんじゃないかと思うようになった」
静かに話す耀くんを、僕と姉が見上げている。耀くんは軽いため息をついた。
「でも、碧が成長していけば、また気持ちも変わるだろうとも思ってた。この前もみんなで話したけど、小学生の碧は誰よりも可愛かったからさ」
そう言って耀くんが僕を見た。姉は僕を睨む。
「だけど、学ランを着た碧を、俺はやっぱり可愛いと思った。ちゃんと成長していって、中性的だけど女の子とは違う身体になっていってるのに、それでも碧が1番可愛いと思った。だからもう自分の気持ちに逆らわないことにした。碧を可愛いと思うなら、それでいいじゃないかと思うことにした。思うのは俺の自由だ。そう思って」
僕は耀くんがそんな風に考えていたなんて全然知らなかった。
それよりも、中学校の先輩後輩の洗礼が心に重くのしかかっていた。
「…耀ちゃん、しょっちゅう碧に可愛いって言うようになったもんね」
姉が低い声でボソッと言う。唇を歪めて。
「あれはガス抜きみたいなもんだよ。思ってることを全部閉じ込めておいたら、いつか爆発するんじゃないかと思った。まあ、それだけじゃなかったけど。それに実際碧は可愛いしね。陽菜の周りでも人気があるだろう?可愛い系男子って言われて。誕生日会とかで撮った写真だって、友達に流してるんだろう?」
え?
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