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姉は珍しく静かに僕の部屋に入ってきた。
落としていた視線をゆっくり上げて僕を見る。
「…まさか、あんなに赤裸々な話されるとは思ってなかった…」
姉は眉を歪めて、片頬で笑いながら言った。
「あたしね、碧。耀ちゃんに3回振られてるの」
「え?」
初耳だ、そんなの
「小6の時は、付き合うとか分からないしって言われて、中2の時は陽菜は友達だからって言われて、高校入った時は好きな人がいるからって言われたの。だから耀ちゃんの好きな人って誰なのよってずっと思ってて、必死で耀ちゃんを見てた。でも、耀ちゃんはすごいモテるのに女の子にはいっつもクールで、誰のことが好きなのか全然分かんなくて。まさか碧だなんて思ってもいなかった。…最近までは」
一旦言葉を切って、姉は軽く頭を振った。
「耀ちゃんはしょっちゅう碧を可愛いって言って甘やかしてたけど、弟みたいに思ってるんだろうって思ってた。耀ちゃん一人っ子だしね。まあ、可愛がりすぎって思わなくはなかったけど」
耀くんに告白された誕生日の日から、少しずつ縮まっていった僕と耀くんの距離。
そしてそれに伴って険しくなっていった姉の表情。
「…ずるい…、碧…」
「…お姉ちゃん…」
僕を睨む姉の目が赤く潤んでいく。
「ねえ、耀ちゃんに告白されるってどんな気持ち?」
「……え」
そう言った姉が、次の瞬間ぶんっと頭を振った。
サラサラの髪が宙に舞う。
「ごめん、何でもない。今日碧が先にお風呂入って」
姉は俯いたまま早口で言って、僕の部屋を出て行った。
僕は姉の出て行ったドアをしばらく見つめていた。
スマホが鳴って、耀くんから「あの後何かあった?」とメッセージがきたから「お姉ちゃんに告白されてたんだね」と送った。
ーー陽菜そんな話したんだ。
ーーー3回振られたって言ってた。
ーー1回目はほんとに子どもだったし、2回目はもう碧が気になってきてたし、3回目は完全に碧が好きだって自覚してたからね。
うわ
文字になるとなんか…すごい
ーーー耀くん明日、どうするの?
ーー普通に碧ん家行くよ。
大丈夫なのかな、お姉ちゃん。
ーー碧は何も心配することないよ。陽菜はたぶんケリをつけたかったんだと思うし。でなきゃわざわざ待ち伏せなんかする必要も、碧に告白の話なんかする必要もないからね。
ーーーそうかな。
ーーだと思うよ。それに陽菜が俺に会いたくなかったら、また「明日はうちで勉強会はしません」ってメッセージ出せばいいんだし。
そう言えばそうか。
お姉ちゃんは一晩で気持ちの整理をつけるのか。
これまでも3回、僕の知らないところで乗り越えてきてるんだ。
母が階下から「お風呂に入って」と言う声が聞こえた。
耀くんに「また後で」と送ってスマホを伏せた。
耀くんの、姉への態度や、姉の言葉への反応がすごく冷静で、少し怖いと思った。
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