予言:滅亡

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 小奇麗な執事服に身を包んだ男が、木製扉を軽くノックし、 極力音を立てないようにして部屋へ入る。 陰りに浸る窓辺には、顔立ちの似た別の男が佇んでいた。 格好は無造作に乱れており、吐かれる息がことごとく荒い。 彼は何やら思い詰めた表情で外の草原を眺める。 「兄さん、今日はどんな一日になりますか?」 斑に濡れた床に革靴を着けるなり、そう尋ねる男の名はアルバート=ルメール。 毎朝9時、兄オースティンの予言を訊くことが習慣となっている。 「……滅亡する」 大袈裟に頭を抱え出すオースティン。 「この村は、滅亡する……!」 アルバートはかつてなく鬼気迫る物言いに狼狽えた。 「どういうことです? 一体その原因は? 敵国の侵攻ですか?」 「滅亡する、滅亡する!」 狂態を演じる兄を弟が必死に取り押さえる。 「慌てないで、兄さん!」 力ずくでベッドまで運ぶと、オースティンの激情は次第に治まっていく。 正気を取り戻した彼は程なくして深い眠りに就いた。  ルメール兄弟は現在、キャロルド村の長を務める。 24時間以内に起こる異変を詳細なイメージを以て感じ取ることができる、 オースティンの予知能力を買われ、 ダムラス王国における分割統治の一端を担っているのである。 その重大な責任がのしかかる数々の職務の中に、 一日の始まりに予言を民衆へ告げ知らせる、というものがあった。
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