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諦めて、剛と愛菜を抱き締めたまま、ぎゅっと両目を瞑る切夜。
しかし――。
(……あれ?痛くない?)
そう、予想していた痛みはいつまで経っても襲って来なかった。
彼が恐る恐る目を開けてみると――何と、彼らの目の前で、赤いコートの女は大人しく正座をしているではないか。
彼女は、切夜が目を開けたのに気付くと、恭しく――カーペットにつきそうな程に頭を下げる。
そうして、
「オトドケモノヲトドケニマイリマシタ」
と、告げた。
「お届け物……?」
切夜には少なくとも、こんなお化けか妖怪か分からないような生き物に知り合いはいないし、況してや、届け物とやらを貰う予定もない。
「……ひ、人違い、じゃ、ないですかね?」
恐怖に声を上擦らせながらも、勇気をもってそう告げてみる切夜。
しかし、切夜の言葉に女は大きく首を横に振った。
どうやら……彼女が届け物を渡す相手は切夜で間違いないらしい。
(……何で俺なんだよぉ……)
切夜は泣き出したくなるのを堪えながら、女が届け物とやらを出すのを待つことにした。
すると、彼女はコートのポケットに手を突っ込むや――とても大切そうに、小さな箱を3つ取り出す。
箱にはどれも美しい細工が施されており、妖怪のような女が取り出した物でなければ、切夜達は喜んで直ぐにでも開けていただろう。
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