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始まりは真夏の夜に
夏も真っ盛りの8月のある蒸し暑い夜。
小学4年生の拝 切夜は、不思議な夢を見た。
夢の中で、彼はとても美しい真っ白な宮殿の前に立っていたのである。
柔らかな曲線を描く宮殿の屋根は、アラジン等の童話でよく見るアラブ風の造りで――そこが日本ではないことを暗に切夜に伝えているようだった。
と、突然どこからか大きく――しかし、荘厳に鐘の音が鳴り響いてくる。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
(どこから聞こえて来るんだ……?)
切夜がきょろきょろ辺りを見回していると、まるで鐘の音が合図であったかのように、目の前の宮殿の扉が開く。
同時に、切夜の足下の地面から顔を出す、無数の植物。
それらは恐ろしい速さで蕾をつけると、一瞬で開花した。
切夜の足下に咲き乱れる色とりどりの美しい花々。
それらは、薔薇もあれば秋桜もあり――まるで、季節に関係なく四季の花が咲き誇っているような印象だった。
「わぁ……!綺麗だな……!」
余りにも美しい光景に、思わず見とれる切夜。
と――。
カツン、カツン、と高い靴音がして、開いた宮殿の扉から、誰かが姿を現す。
柔らかな金色のドレスを身に纏い、切夜の目の前に姿を見せたその人物は――、
「あ、愛菜……?」
今年で4歳になる彼の妹の拝 愛菜だった。
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