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あ、そうそう。それが聞きたかったんだよ。
夏祭りの話にわたしは関係ないよね? 生徒会のメンバーの話なわけだし。
「いや、それは……こいつがその」
「藤堂さんが?」
「みずしろ……いや……」
「は……?」
何故か歯切れが悪い斎森に、田村くんが眉間に皺を寄せる。
斎森がどうにかしろとばかりにちら、とこちらを見てくるが、いやわたしを見られても困る。連れてこられたのはわたしで、説明して欲しいのもわたしなんだが?
「……ふぅん?」
すると不意に、黙ってやり取りを見ていた璃々菜が意味深な声を上げた。
生徒会長の席に腰掛け、小さな体躯といつもの振る舞いに見合わない威厳を纏わせた彼女の目は、真っ直ぐに斎森に注がれている。それを受けて、斎森が少し怯んだのがわかった。
……抜群のカリスマ性を持つ璃々菜に真正面から視線を合わせられると、たまに何もかも見透かされるような気持ちになる。
斎森は多分今まさに、そんな心地だろう。
「なるほどねぇ。なるほどなるほど」
ウンウンと何度もうなずく璃々菜。それを見て、斎森が訝しげに問うた。
「な……なんだよ会長」
「いやいやぁ。なんでもないよぉ? ただりり、いーいのと思いついちゃったぁ」
「いいこと?」
うん、と頷いた璃々菜が不意にわたしを見た。
え、何?
突然視線を向けられ戸惑っていると、璃々菜はニコッ! とイイ笑顔になった。
「ね、もも。りりたちと一緒に夏祭り視察に行こうよ!」
「はぁっ?」
「なっ……」
わたしと斎森の声が意図せず、重なる。
斎森は何故か焦ったような顔をしているが……それはともかく。
「なんでわたしが!? わたし、生徒会メンバーじゃないけど!」
「え〜よくなぁい? りり、ももと夏祭り行きたぁい」
「うわきもっ。璃々菜わたしにそんなこと言うキャラじゃないでしょ……」
「きもって言った! ももがりりをきもって! え〜んりゅうく〜ん」
「よしよし」
わざとらしく泣き真似をする璃々菜の頭を撫でてやりながら、田村くんがわたしを見た。
「でも、俺もいいと思うな。藤堂さん、よく生徒会の仕事手伝ってくれてるし。一緒に来てもらえると助かるよ」
「え……いやでも、わたし」
「勉強の息抜きにもなると思うよ」
こっそりとわたしの耳元でささやき、にこ、と微笑む田村くん。
彼もやはり食わせ者だ。
「俺はね、藤堂さん。本当は俺、藤堂さんが庶務になればよかったんじゃないかと思ってたんだ。でも藤堂さんは叶えたい目標があるから、いろいろと忙しいだろ?」
「そ、そんなことないよ。この生徒会の庶務は田村くんじゃないと」
本音だ。
勉強がなければ生徒会の仕事を本格的にやってみたいな、と思ったこともあるけど、この二人は田村くんじゃないと手綱を握れないと思う。
そう言うと、彼は「ありがとう」と再び笑った。
「けど、藤堂さんがいると助かるのは本当。だから少し手伝ってくれると助かるんだ。三人じゃ人数的にもアンバランスだしね。……駄目かな?」
「え、ええと」
「……おい、隆一」
肩に手を置かれてもじもじと戸惑っていると、後ろからなぜだか不機嫌そうな斎森の声が響いた。
それを受けて、くす、と田村くんが笑い声を零す。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ司、俺は璃々菜のものだから」
「……」
「で、どうかな? 藤堂さん」
田村くんの言葉を受けて、わたしは唸る。
うう……。さ、三人の無言の圧を感じる。
わたしはしばらくの逡巡ののち――わたしはきっと顔を上げた。
「わかった! わたしも行く!」
「おぉ〜! やったぁ! よかったね司くん!」
「よかったな司」
「なんで俺に言う!」
苦々しい顔をした斎森が、何故か楽しげにはしゃいでいる二人を前に深いため息をつく。
この光景は珍しいな、と思ってぼんやり見ていると、「藤堂」と斎森が声をかけてきた。
「そろそろ教室戻るぞ」
「まあ、戻るけど……なんで斎森と一緒に行かなきゃいけないの」
「一緒に出ていったのに、帰り別々だとおかしいだろ」
そうかあ?
「じゃあ璃々菜も同じクラスなんだし、一緒に」
「りりはりゅうくんともうちょっと二人きりでいるから♡」
「さいですか……」
田村くんも災難だな、あんな猛獣に好かれて。見た目が小動物みたいな美少女だから尚更詐欺だよね。
……ま、さっきの『俺は璃々菜のもの』発言からして、相当田村くんも璃々菜のこと好きなんだろうけれども。普段、めちゃくちゃ塩対応だけどね。
はぁーあ、まったく。砂糖を吐きそうだ。
わたしも青春したいなあ――まあ、それはきっと、斎森を負かしてからの話になるけど。
「……なんだよ?」
「べっつにぃ」
わたしの視線に気がついたのか、斎森が眉を寄せる。
わたしはふん、と鼻を鳴らすと、そっぽを向いた。
夏祭り、かあ。
メンバーはともかく……ちょっと、楽しみかも。
*
「――で、結局斎森の頼みってなんだったの?」
「別になんでもない」
「はああ?? なんでもないのに呼び出してついて来いって? 意味不明なんだが……」
「うるさい、忘れたんだよ。お前も忘れろ」
「はあー?? ますます意味わからん」
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