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斎森司。
この学校で、男女問わず最も人気のある人間であると言っても過言ではない有名人だ。
成績は一年の頃から学年一位を守り通している絶対王者であり、全国模試上位常連の天才。中学の時分から日本最高峰の国立大学、東都大学合格間違いなしと言われている。
さらにむかつくことに、この男、長所が頭だけでないのだ。中学生とは思えないスラリとした手足に端正な顔立ちはまるでモデルのようだし、染めてもいないというのに髪は明るめの茶髪。父方の曽祖父がヨーロッパ出身らしいという噂がまことしやかに囁かれているが、本当かどうかは知らない。
生徒会活動のせいであまり顔を出せていないが、弓道部に入っているらしく、その大会成績もかなり良いらしい。
かといって前に出すぎず辣腕生徒会長の補佐をする、性格も人当たりも良い。それ故に、一部の女子の間では王子様として持ち上げられている。
のだが。
わたしに言わせれば。
「今回も例に漏れず銀メダルおめでとう、藤堂」
「なんだと斎森おまえ表出ろ」
とんでもなくいけ好かない性悪男である。
斎森は胸ぐらを掴もうとしたわたしの手をひらりと避けると、やれやれというように肩を竦めた。
「『なんだと斎森おまえ表出ろ』、ねぇ……。お前を品行方正な美人だと思ってるやつらに録音して聞かせてやりたいな。お前の飼ってる猫どうなってるんだよ」
「ももの飼ってる猫は化け猫だよぉ。それかもはや狐? 玉藻前が憑いてる」
「黙れ性悪ツートップ!」
わたしは猫又でも九尾の妖狐でもない!
「それに別に猫なんてかぶってなんてないから。わたしのコレは世渡り。円滑な人間関係を築くために必要なスキルなの!」
「ほぉ〜ん」
「聞けよ!」
こいつらほんとにムカつく!!
「相変わらず仲良いな」
「あっ、りゅうく〜ん!」
再び扉が開き、顔を出したのは庶務の田村隆一くんだった。彼の顔を見るなり、飛びついていく璃々菜。彼女を平然とした顔で受け止めつつ、「こんにちは藤堂さん」と挨拶をしてくれる田村くん。
彼を見ていると、込み上げる怒りも引いていく。さすが『生徒会の良心』と呼ばれているだけある――わたしの中でだが。
「お邪魔してます」
「いやいやそんな。藤堂さんここに来たらいつも仕事手伝ってくれるし、助かってるよ。ね、璃々菜」
「うん♡」
璃々菜は目にハートマークを浮かべている。 うわあ……。
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