1 いけ好かないライバル

5/5
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
――それからというもの、わたしはどうにかして斎森司を追い越してやろうと必死になった。 全てにおいて天才的な才能を持つ斎森と違って、運動神経もまあいい方程度で、芸術的なセンスなんて十人並どころか画伯方向のわたし。 こいつに勝つことができる可能性があるのは、テストの成績だけだったから、ひたすら勉強した。 本来がさつで面倒臭がりで大雑把なわたしが、『品行方正な美人』を演じるのも、斎森司を負かすための一手。人気者で王子様のような扱いを受けるこの男に、ささやか(?)とはいえ公衆の面前でライバル宣言をしたのだ。無駄なやっかみを買う可能性がある。 その無駄なやっかみを撥ね付けられるように、容姿やら振る舞いやらを磨き、『完璧に近い』女子を演じることにしたのだ――周囲の嫉妬は研鑽の邪魔だから。 それでも……それでもわたしは、ただの1回もあいつに勝ったことがない。今回だってそうだ、いつもより手応えがあったのに、届かなかった。 ううん。それどころか未だ、ライバルとして認めて貰ってすらいない。 それがひたすらに、腹立たしくて……悔しい。 「藤堂、手、止まってるぞー?」 「るっさいな」 「おーこわ」 久々に昔のことを思い出して仕事の手を止めていると、すかさず馬鹿にしたような言葉を投げかけてくる斎森。 ……一年以上、こいつに次ぐ二位として背中にはりついている事実と(ちなみに二年はクラスも同じだ)、生徒会長になった璃々菜と親友だということもあり、斎森とわたしの接点はそれなりに多い。だからか、王子様然とした態度はいつの間にか崩れ、斎森はひたすらむかつく奴になった。……まあクラスじゃお互い演技してるわけだけど。 が、わたしがこいつの眼中に無いのは相変わらずだ。 どうしたって追いつけない。 腹立たしさを紛らわすように、わたしは舌打ちをした。 「わたしは好意で生徒会の仕事を手伝ってあげてるんだから。文句言うなばーか」 「万年銀メダルがなんか言ってるな」 「なんだと斎森ィ」 「なんだよ藤堂」 ガタンと立ち上がって斎森を睨みつけると、彼は「フンっ」とばかりに意地悪げに目を細める。 ほんっっっとに、むかつく! こいつの態度こそ、録画でもして全校にばら蒔いてやりたいわ! ぎりぎりと歯を食いしばっていると、かたん、と何かの音がした。 それは田村くんがペンをテーブルに置いた音だった。 「斎森」 「……ハイ」 「藤堂さん」 「……ハイ」 「生徒会室では静かにね」 「「ハイ」」 「や〜んりゅうくんかっこいい!」 「璃々菜もだよ」 「ハイ」 一瞬にして黙らせられるわたしたち。 真に恐るべきは猛獣使いリュウイチか。……いや、わたしは猛獣じゃないけど。璃々菜と齊森と違って!
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!