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――それからというもの、わたしはどうにかして斎森司を追い越してやろうと必死になった。
全てにおいて天才的な才能を持つ斎森と違って、運動神経もまあいい方程度で、芸術的なセンスなんて十人並どころか画伯方向のわたし。
こいつに勝つことができる可能性があるのは、テストの成績だけだったから、ひたすら勉強した。
本来がさつで面倒臭がりで大雑把なわたしが、『品行方正な美人』を演じるのも、斎森司を負かすための一手。人気者で王子様のような扱いを受けるこの男に、ささやか(?)とはいえ公衆の面前でライバル宣言をしたのだ。無駄なやっかみを買う可能性がある。
その無駄なやっかみを撥ね付けられるように、容姿やら振る舞いやらを磨き、『完璧に近い』女子を演じることにしたのだ――周囲の嫉妬は研鑽の邪魔だから。
それでも……それでもわたしは、ただの1回もあいつに勝ったことがない。今回だってそうだ、いつもより手応えがあったのに、届かなかった。
ううん。それどころか未だ、ライバルとして認めて貰ってすらいない。
それがひたすらに、腹立たしくて……悔しい。
「藤堂、手、止まってるぞー?」
「るっさいな」
「おーこわ」
久々に昔のことを思い出して仕事の手を止めていると、すかさず馬鹿にしたような言葉を投げかけてくる斎森。
……一年以上、こいつに次ぐ二位として背中にはりついている事実と(ちなみに二年はクラスも同じだ)、生徒会長になった璃々菜と親友だということもあり、斎森とわたしの接点はそれなりに多い。だからか、王子様然とした態度はいつの間にか崩れ、斎森はひたすらむかつく奴になった。……まあクラスじゃお互い演技してるわけだけど。
が、わたしがこいつの眼中に無いのは相変わらずだ。
どうしたって追いつけない。
腹立たしさを紛らわすように、わたしは舌打ちをした。
「わたしは好意で生徒会の仕事を手伝ってあげてるんだから。文句言うなばーか」
「万年銀メダルがなんか言ってるな」
「なんだと斎森ィ」
「なんだよ藤堂」
ガタンと立ち上がって斎森を睨みつけると、彼は「フンっ」とばかりに意地悪げに目を細める。
ほんっっっとに、むかつく!
こいつの態度こそ、録画でもして全校にばら蒔いてやりたいわ!
ぎりぎりと歯を食いしばっていると、かたん、と何かの音がした。
それは田村くんがペンをテーブルに置いた音だった。
「斎森」
「……ハイ」
「藤堂さん」
「……ハイ」
「生徒会室では静かにね」
「「ハイ」」
「や〜んりゅうくんかっこいい!」
「璃々菜もだよ」
「ハイ」
一瞬にして黙らせられるわたしたち。
真に恐るべきは猛獣使いリュウイチか。……いや、わたしは猛獣じゃないけど。璃々菜と齊森と違って!
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