じゃない人たちの、一方その頃。

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「理人さん」  先に湯船に浸かって両腕を広げて〝どうぞ〟すると、理人さんは喉の奥で「うっ」と呻き、たっぷり3秒くらい躊躇ってから、足からそろそろと入ってきた。  俺に背中を向けると、ゆっくりと腰を落としていく。  目の前を至近距離で通過していく臀部は、引き締めまっていてきれいだ。  つい触れてしまいそうになるのを必死に堪えていると、お湯の表面が大きく波打ち、理人さんの背中が、俺の胸板にぴたりと合わさった。  波紋が消えるのも待たずに後ろから腕を回して抱きしめると、首の後ろが真っ赤に染まる。  嗚呼。  かわいい……!  濡れた髪にこっそり口づけし、俺は腕の力を緩めた。 「それで?」 「ん?」 「噂の新人君と、どんな話したんですか?」 『新入社員 ランチ 誘い方』 『20代 男子 好きな食べ物』  タブレットの検索履歴が、そんな言葉ばかりで埋もれているのに気づいたのは数日前。  思っていたよりも深刻そうで心配したけれど、俺は、理人さんならきっと自力でなんとかするだろうと確信していた。    うーんと唸ったあと、理人さんが後頭部を俺の鎖骨に預ける。  一度は波を失ったお湯が、また、ちゃぷん……と小さく波打った。 「それが……特になにか話したわけじゃないんだよな」 「そうなんですか?」 「一緒にご飯食べて、雨降ってきたなーなんて言ってたら、ばーちゃんがロシア系なんすよーって話になって……」  は?  ばーちゃんがロシア系……?  理人さんなら、どんな話をしても敬遠されがちな〝上司の説教〟みたいな感じにはきっとならないだろうと思っていたけれど、いったいどんな流れでそんな話になるんだろう。 「それなのに、模武鴨くんの方から『おれ、一生懸命やります!』って言ってくれたんだよな」 「そうなんですね」 「あー……ガパオライスが、ものすごく美味しかったからかも……?」  いや、違うでしょ。 「神崎室長は、ちゃんと自分のこと見てくれてるんだ……って気づいたんじゃないですか?」 「えっ……」 「その新人君がOJTに来てから、ずーっとその子のこと考えてたでしょ」 「だ、だって、ものすごく飲み込み早いし、自分は将来こういう仕事をしたいってビジョンもしっかりあって、良い人財だなって思ったんだ。それなのに、俺の下にいるなんてもったいないだろ。だからっ……」 「木瀬さんのところに推薦したんですか?」 「航生は厳しいけど、その分いろんなことを教えてくれるから」 「そうですか、よかったですね」 「うん!」 「じゃあ、もういいですか?」 「え、なにが? ――っあ」 「こういうことしても」  手の位置をずらしてふよふよと気持ち良さそうに漂っていたの根元を持って揺らすと、淡い紅色に縁取られたアーモンド・アイが俺を振り返り、じっとりと睨んだ。 「……変態」  変態=大好き!もっとして!  いつもの脳内変換に無事成功した俺は、ヒクンと震えたかわいいそれを、下から上へと扱き上げる。 「あっ、あっ」  湿気の粒に反射した嬌声が、浴室全体に広がっていく。  すっかり元気になった俺の分身を理人さんの分身の裏側に添わせると、理人さんはぎゅっと目を瞑った。 「ん、んん……っ」 「気持ちいい?」  うっかり耳たぶの上に吐息が落ち、理人さんが小さく身震いした。  くっつき合った欲望をまとめて握って優しく上下させると、先端からあふれ出る粘液のせいで、お湯の中なのにぬるぬるしている。 「やだ……!」 「なんで?」 「のぼせる……っ」  いやいやとかわいく首を振りながら、でも、それが本音じゃないことなんてバレバレだ。  身体をよじって今にも爆発しそうな自身を好きなところに当てているのは、ほかでもない理人さんなのだ。  たとえ無意識の行動だとしても、心臓と股間に悪い。  ものすごく。 「久しぶりですね、挿れないセックス……」  というか、実は自体が久しぶりだ。  新人君がOJTにやってきてからというもの、理人さんはずっと一生懸命だったから。  それこそ、焼き立ての餅をいくつも量産してしまうくらいに。 「ダメですよ、理人さん」 「な、にが……っ」 「俺だけですからね」  俺の手の動きに合わせて、冷め始めたお湯がバチャバチャとはしたない音を立てる。 「理人さんには、俺だけ……」 「そ、んなの、決まって……ん、んんぅ」  理人さんのつま先が、きゅうっと丸まった。  控えめな腹筋が形を変え、理人さんの手が俺の腕を鷲掴みにする。  動きを止めようとするもう一方の手に指を絡め、俺は囁いた。 「俺の手でイッてください……」 「あ、あーーッ」
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