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「お待たせいたしました」
「うわっ!」
出来立てのクリームソーダを運んでいくと、彼は声をあげて、上半身をのけぞらせた。
実は、うちのクリームソーダはちょっと変わっている。
くびれた細長いグラスに注がれたたっぷりのメロンソーダの上に、メロンソーダと同じくらいの高さのソフトクリームが乗っているのだ。
クリームソーダだけではなくフロート系のドリンクがすべてその仕様になっていて、運んでいくと店内がざわつくところまでが、うちのフロートあるある。
今も、すぐ後ろのボックス席に座っている女性グループから「え、何あれ」「すご」「食べにくそう」なんてコソコソ話が聞こえてくる。
そして件の彼はというと、目の前にそびえ立ったクリームソーダをキラキラした瞳で見つめていた。
「あ、あの」
「はい?」
「写真、撮ってもいいですか?」
キラキラ光る瞳を見開いたまま、彼がスマホを持ち上げる。
どうぞと促すと、コースターやグラスの角度を少し変えてから、何枚か続けて写真を撮った。
「インスタですか?」
この『ペンギンカフェ』は地元民には馴染み深いローカルカフェだけれど、インスタを始めてからは、このそびえ立つクリームソーダを求めて、遠いところからわざわざ来てくださるお客様も増えた。
私は、きっと彼もインスタ経由で来てくれたに違いないと思ったのだけれど。
「あ、いや……ちょっと、見せたい人がいて」
はにかんだように笑い、口元を押さえた彼の左手の薬指で、キラリと指輪が光った。
なるほど、そういうことか。
私は勝手に納得し、ついでに彼の『見せたい人』に勝手に心の中で拍手を送る。
こんな優しい人を夫にできたあんたはすごい、と。
「ごゆっくりどうぞ」
彼はまた「ありがとう」と口にすると、細長いスプーンを持ち上げた。
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