模武たちの平行線

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「お待たせいたしました。AランチとBランチです」  エスニックな香りに鼻腔をくすぐられ、急に腹が減ってきた。  ランチプレートに盛られていたのは、ガパオライス。  ひき肉にちりばめられた色鮮やかなパプリカと、目玉焼きから垂れる半熟の黄身が、食欲を誘う。    いただきます、と手を合わすなり、室長は、プレートの隣に置かれていた丸いガラスのカップに手を伸ばした。  緑色の透き通ったゼリーの上に、生クリームとさくらんぼが乗った小さなデザート。  お子様ランチに引っついてきそうなそれを持ち上げると、室長は、カップに顔を寄せてくんくんと鼻をヒクつかせてから、嬉しそうに頬を持ち上げる。  そして、ためらうことなくスプーンをブッ刺した。 「いきなりデザートすか……」  オレは呆れてたけど、室長は「それがどうした」というように真顔になる。 「デザートだと思うから、違和感があるんだよ」 「……はい?」 「ゼリーが主食で、ほかがデザートだと思えば普通だろ」 「普通って……」  今の発言のどこを切り取っても、決して普通とは言えない気がする。  オレなら三口で食べ終わりそうなゼリーをチビチビ大事そうに食べきると、室長は、ようやくメインプレートの方に意識を移した。  ひと口食べて、 「ん、おいしい!」 「あ、はい」  また一口食べて、 「うわ、辛っ!」 「だ、大丈夫すか」 「唐辛子の塊だった……!」  涙目で水をがぶ飲みしたり、 「これ、家で作れるのかな?」 「室長、料理するんすか」 「いや、俺はできないけど……」 「カレシすか」 「うん」  堂々とノロケたり、 「あー……最後の一口か。名残惜しい……」 「そりゃ、食えばなくなりますからね」 「そうなんだよな……」  心の底から残念そうに呟いて、でも、最後の一口を食べずにスプーンを置いた。 「食わないんすか?」 「模武鴨くんと一緒に食べ終わりたいから、待ってる」 「……は?」 「せっかく一緒に来てるんだ。同時にごちそうさましたいだろ?」 「なっ……」    一体なんなんなんだ、この人!?
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