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 へそを出した服装の汐凜の後ろ姿に、航理は思わず半袖から伸びた自分の二の腕を擦る。前に来た時より昼間は暑い日が続いていたが、それでも夜風は少し冷たい。  ふと足を止めて、汐凜は振り返った。  今にも眠ってしまいそうな程に心地良さそうで、満たされた顔をしている。  黙って見つめていると、汐凜は突然走り出して、すぐにふらつく。咄嗟に手を伸ばして、航理はその身体を支える。 「いやぁ、とっても幸せ」  航理に抱き着いて言ってから、エスコートさせるかの如く、汐凜は腕に絡みついて歩き出す。抗うことを止めて、航理はついていく。  二人の体重に沈む砂浜に時折足を取られながら、どうにか転ばずに波の当たる場所まで辿り着いた。 「それにしても」  また、汐凜は足を止める。航理が隣を見ると、近い距離で二人の視線が交わる。 「航理は、つまんない道を選んだね」  一緒に行く、と航理が言った時、止めなかったのは汐凜だ。そして、止めなかったのは航理も同じだ。 「汐凜が好きに生きるように、俺も好きなように生きたいと思っただけだよ」 「ふふっ、分かってる? 矛盾してるかもって」 「分かってる」  へそ出しのトップスとセットのスカート。よく似合う服を着た汐凜と、遊園地とカフェと焼き肉屋を巡った。体力に自信がある航理でも、疲労と睡魔に身体が重い。  けれどそれ以上に、ふわりと柔らかく甘いものに満たされていた。胸の空虚な部分さえも埋め尽くしている。  だから、今日がいいと思った。偶然それが、汐凜のその時と重なった。 「心残りは?」 「明鈴は、少し心配。新しい友達が出来て明るくなったんだ。また元通りになったら困る」 「じゃあ、伝えとこっか。メールだけど」  重たい頭で頷いて、ポケットからスマホを取り出す。簡潔に、それでも明鈴には伝わる言葉を打ち込んで、海とは反対側に放り投げた。誰かしら見つけるだろう。  ゆっくりと瞬きを繰り返して見届けた汐凜は、ぐいっと航理の腕を引っ張って足を進める。  夜の海が、大きさの違う二人の足を覆い隠す。二人は構わず波に逆らって身体を沈めていく。 「あのさ」  肩まで海水に浸かって、航理はメールに書いたこ とを声にした。 「わ、先に言われちゃった」  あっは、ほんとに気が合うねぇ。あっはは――  最期まで楽しそうな笑い声は、夜の海に溶けて消えた。 『これまでにも、この先の未来にもないくらい、幸せだよ』
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