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ふぅと小さく息を吐いて、ドアノブを掴む。脱いだ靴を整えて、一度リビングを覗く。
一週間前に出会ったばかりの汐凜と明鈴は、ソファの上に隣り合って座りテレビを眺めていた。
「ただいま」
「おかえりぃ」
「おかえりなさい」
明鈴が振り向いて、ブロンドの髪がふわりと揺れる。コンビニ袋を持ち上げると、ガサッと音がした。聞き分けてか、汐凜の視線が航理に移る。
「観ながら食べようと思って」
「おぉー、なになにぃ」
猫のように汐凜は軽快にソファを飛び越えて、明鈴は小走りで駆けてくる。ひとまず安全そうな明鈴に手渡す。
「コンビニスイーツとスナック菓子。それと、駄菓子だよ」
「お兄ちゃんはどれ食べたい?」
「俺はどれでもいいよ。明鈴が好きなの選んで」
「いいの?」
いいよ、と微笑みかければ、ありがとう、と明鈴の顔から不安がすーっと消える。
「さすが、お兄ちゃんは違うねぇ。ありがたーく頂くよ」
にやりと笑った後に、汐凜はコンビニ袋を覗いて鼻歌を歌う。遠慮がちに明鈴が台所に歩いていくと、汐凜も猫のようについていった。
自室に向かい、制服を脱いで部屋着に着替える。ゆったりとしたロングTシャツの上から胸に手を当てる。
「よく言う」
誰にも聞かれないような小さな声で呟く。それは辛うじて、悪態ではなかった。
「あたしは、航理の妹で姉だよ」
入学式早々、おかしな自己紹介をした汐凜は、愛想よく綺麗な顔立ちの航理とは違う意味で注目を集め、すぐに人気者になった。家では、人見知りの明鈴の心をどういう訳か掴んで、すっかり仲良しだ。
愛想の良い航理は、表面上は新しい家族、そして同い年のきょうだいとして接しているが、正直悩んでいた。
汐凜を前にすると、何かが、胸の空虚な部分に触れる。そしてそれは日に日に大きくなっていく。
それは知らない感覚で、けれど不快ではないことが余計に頭を悩ませた。
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