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テレビが放つ光を頼りに、汐凜が駄菓子とスナック菓子を適当に混ぜたという袋に箸を突っ込む。バリバリと固い音に交じって、すすり泣く声がする。隣を見ると、明鈴が大粒の涙を零していた。
「んっ、んー」
映画が終わって電気をつけると、感動しているのかどうか、汐凜は天井に向かって伸びをした。航理は席に戻りながら、こすらない、と明鈴の頬を流れる涙を指先で拭う。
「分かんないなぁ」
「分からない?」
ズズッと鼻を啜り、明鈴は汐凜を見つめる。大変、と面白そうに笑ってから、汐凜は腕を組んでソファに凭れ掛かった。
「分かんないっていうか、つまんない。愛しい人の後を追うっていうのが」
世界的にも悲劇的な結末で有名な物語を、しかもその最期をつまらないと言ってしまうのか、と航理は思ったが声には出さなかった。明鈴は、考え込むような顔をする。
「つまらない?」
「うん。ま、ストーリーは面白かったけどね」
明鈴は答えに迷ったように、ティッシュを鼻に押し付ける。
「汐凜は、どういう最期だったらおもしろいの?」
きょとんとした二人の目に、航理はハッとする。気付かないうちに、そう問いかけていた。
「おもしろい最期なんてもの、あるとは思わないけど」
平然と答えてから、汐凜は初めて出会った時のように目を細めた。
「これまでにも、この先にもないってくらい幸せな日に、あたしは死にたい」
「……え」
「好きなように生きたいし、死ぬときは選びたいんだよ。つまらない顔をして死ぬのは、絶対に嫌」
汐凜は欠伸をして手を伸ばし、残り少ないジンジャーエールを喉に流す。
「最期に悲しそうに泣いてたから、お姉ちゃんはつまらないのかな」
難しそうな顔で真面目に考え込んで出した明鈴の答えに、汐凜は何も答えず、空のグラスを片手に台所に向かった。
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