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「汐凜は何者なの?」
「航理と同じ人間で、航理と同じ高校一年生だけど?」
「そういう意味じゃ、ないけど」
「けど?」
「……何でもない」
「えー、なにそれぇ」
どうやって言葉にしたらいいのか分からない。小さな溜息をついて、あっと思い出した。
「おしゃれなカフェ、いいの?」
濡れたセミロングの髪を撫でていた汐凜は、同じく濡れた航理をじっと見上げる。
明鈴と航理、そして新しいきょうだいの汐凜の三人で、放課後カフェに行こうと昨夜話していた。
「いいのぉー。明鈴、来れなくなったみたいだし」
「そうなんだ」
「でもま、航理とデートするつもりだったけどね」
細い腕を航理の腕に絡めて、珍しく穏やかに微笑む。濡れた熱に常識が溶ける前に、航理は息を吸った。
「航理はお兄ちゃんで弟だよ」
航理の言葉を簡単に読み取って、汐凜はそれを遮った。
「じゃあ、デートじゃないよ」
「兄と妹でデートってあるよ~」
不満そうで、けれどやけに楽しそうな汐凜の腕を引き剥がし、歩いていって蛇口を閉める。
「俺は、他人だよ」
汐凜は、同じ誕生日で同い年。血の繋がらない兄妹で姉弟。
そして航理は、明鈴とも母親とも血の繋がりがない。亡くなった前の父親の連れ子である航理は、だから明鈴と髪の色が違う。
新しい家族が増えた家の中で、航理だけが血の繋がりがない。けれど、特別に居心地が悪いわけでも、寂しいわけでもない。
「やっぱり、今日付き合ってくれる?」
航理が振り返るよりも早く、汐凜は航理の手を引いて走り出した。
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