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「ふーん。そうなんだ」
伸吾は何でもない事のようにうなずくと、マグカップのコーヒーをすすった。斗真はそれを見て、内心とてもホッとした。
すると、背後から急かすような麻里の声が響く。
「ちょっとぉ! 二人とも何やってんの? トラック今日中に田中さんに返さなきゃいけないんだから、斗真の荷物運び込まないと!」
「ごめん! わかった! 今すぐ行く!」
伸吾は慌てて椅子から立ち上がると、リビングを横切って家の外へと小走りで出て行った。
「本当に麻里姉ちゃんの言いなりなんだな……」
斗真は再びため息をつくと、ノロノロと玄関に向かって歩いた。
軍手をはめ、トラックの荷台から、東京から運んできた斗真の荷物を三人で下ろし始めた。きびきびと動く麻里に対し、麻里よりも腕力がないのではないかと斗真が疑うほど伸吾は非力だった。危なっかしいことこの上ない。もはや呆れる気すら起きない。
伸吾が顔を真っ赤にして抱え、足元をふらつかせている段ボールを斗真は奪い取ると軽々と持ち上げる。感嘆の声を伸吾が上げた。
「すごいねぇ! さすが剣道で鍛えてるだけあるなぁ!」
「斗真はベンチプレス百八十キロ上げられるんだって!」
「ホント、麻里さん? だったら、万一泥棒が来ても大丈夫だね!」
伸吾が腕組みをして嬉しそうに言うと、麻里が笑った。
「泥棒なんてこの村に出たことないじゃない。それに、そんなに価値のあるものなんてこの家にないよ」
「何を言うんだ! 君のハートがあるじゃないか!」
「私のハートはルパン三世にも奪えないから大丈夫だよ」
「麻里さん! 君はクラリス姫よりも可憐だ!」
……ばーか。聞いちゃいられねえ。
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