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斗真が視線を向けると、小柄な少女が老婆を庇うようにして男達の前に立ちふさがっていた。
ポニーテールのオフホワイトのワンピース姿で首からカメラを提げている。マスクが大きすぎる気がするが、たぶん少女の顔の方が小さいのだろう。背には小さなパステルグリーンのリュックを背負っていた。
「もうウタお婆ちゃんを困らせないで! こんなひどいこと何度もしないで下さい!」
すると、男達はゲラゲラと嗤い始めた。
「俺達は野川さんと楽しい世間話をしていただけだぜ。あーあー。せっかく盛り上がった気分が台無しだ。これは、ひなたちゃんが代わりに俺達を楽しませてくれねーとな! イイっスよね?」
そうチンピラの一人がチラッとリーダー格らしい二メートルはありそうなゴリラのような大男を見た。大男が無言のままうなずくと、他の男達の太い腕が少女の華奢な体に伸びる。
――ヤバい! なんて、バカな女だ!
斗真は手早くシートベルトを外すと軽トラックのドアを開けた。茹だるような夏の熱した空気と、けたたましい蝉の声の中にそのまま一気に飛び込もうとする。その瞬間、鋭い声が上がった。
「やめなさい!」
斗真が動きを止めると、歩道に実直そうな中年のビジネスマンの姿があった。中肉中背だが、大柄な男達を前にまるで動じる様子がない。男は朝比ひなたと野川ウタのそばに歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。私の部下が失礼しました。お二人にはまた後日謝罪に伺います」
「いえ、そんな! 滝川さんが悪いわけじゃないですから! それに、私もウタお婆ちゃんもケガとかしてないし、少なくとも私には謝罪なんてこれ以上必要ないです!」
ひなたが恐縮したように慌てるのを見て、滝川は安堵したように気さくな笑顔を見せた。
「そうでしたか。それは一安心です。野川様のお宅にはちゃんと謝罪にうかがいますので」
「フン! お前になんか死んでも来て欲しくないね! さっさとそのバカどもを連れて失せろ!」
ウタはそれだけ吐き捨てるように言うと顔を背けた。しかし、滝川竜司は嫌な顔一つせずに、もう一度ウタとひなたに向かって頭を下げる。そうして、ニヤついた笑みを浮かべた男達を連れて、その場を立ち去った。
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